ボーンマス

ボーンマスは、イングランド南部のドーセット州に位置する海辺の町です。南にイギリス海峡、東にクライストチャーチ、西にプールと接しており、これらの都市と連携して南東ドーセット都市圏を形成しています。町の名前は、中心部を流れるボーン川の河口（mouth）に由来し、14世紀の記録にその名が登場します。2021年時点の人口は約20万人で、ドーセット州では最も人口の多い町となっています。

ボーンマスの最大の魅力は、約11キロメートルにもわたる美しい砂浜のビーチと、年間を通して比較的温暖な気候です。これにより、古くからイギリス屈指のリゾート地として発展してきました。2007年の調査では、「イギリスで最も幸福な街」に選ばれるなど、住民の満足度が高いことでも知られています。

歴史

18世紀まで、ボーンマスの地はほとんど人の住まない荒地でした。しかし、1812年にドーセット義勇農騎兵団の将校、ルイス・トレゴンウェルがこの土地を取得し、保養地としての開発構想を抱きます。彼は結核治療に効果があるとされたマツを植え、いくつかの貸別荘を建てましたが、当初は期待通りの成功を収めませんでした。それでも、トレゴンウェルが亡くなる1832年までには、別荘などが点在する小さな集落へと成長していました。現在、トレゴンウェルはボーンマスの礎を築いた人物として記憶されています。

トレゴンウェルの試みに続き、地主の息子ジョージ・タップス＝ジャーヴィスが街の発展を加速させます。彼はボーンマスで最初のホテル（現在のロイヤル・バース・ホテル）を建設したり、著名な作家を招致するなど、リゾート地としての知名度向上に大きく貢献しました。1856年には、今日街のシンボルとなっているボーンマス桟橋の原型が設けられました。

1870年の鉄道開通が、ボーンマスに飛躍的な発展をもたらしました。ロンドンなどからの避暑客が押し寄せ、街は急速に規模を拡大。1880年に17,000人だった人口は、1900年には60,000人へと激増し、多くの芸術家や作家がこの地を訪れました。20世紀に入ると、中心部には劇場やカフェ、ホテル、アール・デコ様式の映画館などが次々と建設されました。第二次世界大戦中、街は大きな空襲からは免れたものの、海からの侵入に備えて要塞化された臨海地区は甚大な被害を受けました。

行政的には、歴史的にはハンプシャー州の一部でしたが、1974年の地方行政再編でドーセット州に編入されました。その後、1997年に独立した単一自治体となりましたが、2019年には隣接するクライストチャーチやプールと行政的に統合され、現在に至ります。

地理と気候

ボーンマスはロンドンから南西へ約170kmに位置します。西はプール、東はクライストチャーチ、北はイースト・ドーセットに隣接し、南はイギリス海峡（プール湾）に臨んでいます。街の北端・東端はストゥア川が自然の境界を形成し、街の中心を流れるボーン川は、ボーンマス桟橋の近くでイギリス海峡に注ぎます。世界遺産のジュラシック・コーストは、ボーンマスから西へ向かった海岸線に広がっています。

南海岸にあるボーンマスは、年間を通して比較的穏やかな気候が特徴です。夏の平均気温は12℃から22℃、冬の平均気温は1℃から8℃程度で、年間降水量は約800mmと、イギリスの平均（約1126mm）を下回ります。

経済

ボーンマスの経済はサービス産業が中心で、就業人口の約95%がこの分野に従事しています。これはイギリス平均よりも高い割合です。一方、製造業は隣のプールで盛んなため、ボーンマスではあまり根付かず、就業人口の約2%にとどまります。主要産業は観光業であり、年間約4.4億ポンド（約620億円）の経済効果があるとされています。2020年のロックダウン解除後、多くの観光客が海岸に押し寄せたことは、観光地としての人気の高さを示す出来事でした。

中心部を流れるボーン川沿いにはショッピングエリアが広がり、特に海岸線に近い部分は歩行者天国となっています。ブティックやカフェ、アクセサリーショップなどが軒を連ね、ヴィクトリア様式のアーケードも見受けられます。東部のボスコム地区にはアンティークショップなどが、西のウェストボーン地区にはブランド店やインテリアショップが集積しています。郊外の北部には、カッスルポイント・ショッピングセンターという大規模な商業施設も位置します。

文化と芸術

ボーンマスは、約11kmのロングビーチや、ヴィクトリア朝・エドワード朝時代の美しい建築で有名です。かつては引退後の静養地といったイメージもありましたが、近年では中心街に多くのクラブやバー、レストランがオープンし、若者がナイトライフを楽しむ場としても人気を集めています。また、多数の語学学校が充実しており、多くの留学生が語学研修に訪れる主要な地となっています。

文化・芸術の面では、1901年に開館したラッセル＝コーツ美術館・博物館があります。ここにはヴィクトリア朝時代の主要な画家たちの作品に加え、創立者が日本旅行中に収集した日本の美術品も展示されています。また、1893年に創設されたボーンマス交響楽団は、現在本拠地はプールにあるものの、この地域を代表する文化組織の一つです。

文学との関連も深く、『ホビットの冒険』や『指輪物語』の作者であるJ・R・R・トールキンは、大学教授を退任後にボーンマスに移り住み、この地でその生涯を終えました。また、ロバート・ルイス・スティーヴンソンは、この地で代表作『ジキル博士とハイド氏』を執筆しています。セント・ピーター教会には、『フランケンシュタイン』の作者メアリー・シェリーの一族が眠る墓所があり、彼女自身の遺骸も、本人の意思に基づきこの教会に葬られています。

主な見どころ（ランドマーク）

ボーンマス桟橋（Bournemouth Pier）: ビーチの中央に位置する代表的な観光名所。当初30mだった桟橋は繰り返し拡張され305mとなりました。桟橋上には劇場やレストラン、バーなどが備わっています。
ボーンマス・インターナショナル・センター（BIC）: 会議場としてだけでなく、コンサートなども開催される大型施設です。
セント・ピーター教会（St Peter's Church）: ボーンマスで最も古くからある教会の一つで、イギリスの第一級指定建築物に指定されています。メアリー・シェリー一族の墓所があります。
ボーンマス・ガーデンズ（Bournemouth Gardens）: 街の中心を流れるボーン川に沿って広がるヴィクトリア様式の公園。アッパー、セントラル、ローワーの3つのエリアに分かれ、桟橋まで続いています。
ボーンマス・アイ（Bournemouth Eye）: ローワー・ガーデンズに設置された係留気球。最大30人を乗せ、地上150メートルの高さまで上昇し、パノラマ景観を楽しめます。
ロイヤル・バース・ホテル（Royal Bath Hotel）: 1838年創業のヴィクトリア建築の高級ホテル。かつてはエドワード7世（皇太子時代）やオスカー・ワイルド、ベンジャミン・ディズレーリといった名士も滞在しました。

このほか、パビリオン・シアターやボーンマス海洋水族館（オーシャナリウム）なども人気のスポットです。かつて存在したIMAXシネマを含むウォーターフロント・コンプレックスは、景観を損ねるとして批判を招き、「イングランドで最も嫌われている建物」に選出される不名誉な評価を受け、2013年に取り壊されました。跡地には現在、野外イベントスペースが整備されています。

教育とスポーツ

ボーンマスには、ボーンマス大学とアーツ・ユニバーシティ・ボーンマスという二つの大学があります。特にボーンマス大学はイングランド南部最大級の大学の一つとして知られ、両大学とも隣町プールにもキャンパスがあります。また、語学教育が盛んな地であり、多くの英語学校が存在し、留学生の語学研修先としても人気を誇ります。

スポーツでは、サッカーのプレミアリーグに所属するAFCボーンマスがあり、「チェリーズ」という愛称で親しまれています。ビーチではウォータースポーツも盛んに行われており、風の強い日には多くのウィンドサーファーやカイトサーファーが波に乗る姿が見られます。かつてはヨーロッパ初の人工サーフィンリーフが建設されましたが、現在は安全上の理由から閉鎖されており、改修が進められています。

交通アクセス

鉄道の主要駅は、中心部から少し離れた場所にあるボーンマス駅と、街の東部に設けられたポークスダウン駅です。西側の住民は、隣町プールのブランクサム駅を利用する人も多いです。ロンドン・ウォータールー駅までは鉄道で約1時間50分、バスなら約2時間30分でアクセス可能です。ボーンマス国際空港は街の中心部から車で20〜30分の距離にあり、イギリス国内やヨーロッパ各地へのフライトが利用できます（空港自体は厳密にはクライストチャーチ郊外に位置します）。

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