テンギズ・アブラゼ

テンギズ・アブラゼ（თენგიზ აბულაძე、Tengiz Abuladze、1924年 1月31日 - 1994年 3月6日）は、旧ソヴィエト連邦の一部であり、現在はジョージアとして知られるグルジア出身の傑出した映画監督である。彼の作品は、故郷グルジアの豊かな文化、歴史、そしてソ連邦体制下での人々の生活や社会の矛盾を深く掘り下げたもので、国内外で高い評価を得ている。

略歴

アブラゼは、グルジア西部の古都クタイシに生を受けた。若くして芸術の道に関心を持ち、1943年から1946年にかけてトビリシ演劇大学で演出などを専攻し、基礎を学んだ。その後、映画製作の専門教育を受けるため、ソヴィエト連邦の中心地であるモスクワへ移り、権威ある全ロシア国立映画大学（VGIK）の監督科に入学。ミハイル・ロムの指導のもとで学び、1952年に同大学を卒業した。

卒業翌年の1953年から、彼はグルジア映画社に所属し、本格的に映画監督としてのキャリアをスタートさせた。キャリアの初期段階では、主に短編ドキュメンタリー映画の制作に携わった。この時期には、同じく若手監督であったレヴァズ・チヘイゼと共同でいくつかの作品を手掛けており、1953年の『我々の宮殿』や1954年の『国立グルジア民族舞踊団』などが知られている。また、1955年にはチヘイゼとの共同監督で、グルジアの文学作品を原作とする短編劇映画『青い目のロバ』（『マグダナのロバ』としても知られる）を制作。この作品は、1956年の第9回カンヌ国際映画祭で最優秀短編映画賞を受賞し、まだ若手であったアブラゼとチヘイゼの才能が早くも国際的な舞台で認められる契機となった。

主要作品と「祈り三部作」

短編やドキュメンタリーで経験を積んだ後、アブラゼは長編劇映画の世界へと進む。1958年の『他人の子供たち』や1962年の『僕とおばあさんとイリコとイラリオン』などで、グルジアの人々の生活や人間関係を独自の視点と表現で描き出した。しかし、彼の芸術的な探求の頂点を示すのは、しばしば「祈り三部作」または「懺悔三部作」と呼ばれることになる一連の作品群である。この三部作は、1967年の『嘆願』（または『祈り』）、1977年の『幸せの樹』（または『希望の樹』）、そして1984年の『懺悔』によって構成される。これらの作品は、グルジアの歴史、文化、精神性を背景に、信仰、伝統、そして現代社会が抱える問題といった重層的なテーマを探求している。『幸せの樹』は、1979年にイタリアの権威あるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最優秀外国映画賞を受賞するなど、国外でも注目を集めた。

中でも、三部作の掉尾を飾る『懺悔』は、アブラゼの代表作として、そしてソヴィエト連邦の歴史における重要な芸術作品として特筆されるべき作品である。この映画は、スターリン時代に行われた大粛清や全体主義的な支配体制の恐ろしさを、寓話的、象徴的な手法を用いて痛烈に批判した内容を含んでいた。そのため、制作後、ソ連当局によって数年間にわたり上映が禁止されるという憂き目に遭った。しかし、1980年代後半に入り、ミハイル・ゴルバチョフ書記長が進めるペレストロイカとグラスノスチ（情報公開）の流れの中で、1987年にようやくソ連国内での一般公開が実現した。公開されるやいなや、『懺悔』は多くのソ連市民に衝撃と感動を与え、過去の過ちに向き合い、社会を変革しようとする時代の空気と深く共鳴し、ペレストロイカを象徴する映画として広く認識されるに至った。国際的にも高く評価され、1987年のカンヌ国際映画祭では審査員特別賞、国際批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞を獲得。翌1988年には、アメリカのゴールデングローブ賞で最優秀外国語映画賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝いた。

後年の活動と評価

『懺悔』の成功とその社会的な影響力により、テンギズ・アブラゼの名声は不動のものとなった。彼は芸術家としての功績を認められ、1980年にはソヴィエト連邦人民芸術家の称号を授与された。さらに、1988年にはソ連邦で最も権威のある賞の一つであるレーニン賞を受賞している。また、彼は単なる芸術家の枠を超えて、社会の動向にも積極的に関与し、1990年から1991年にかけては、ソヴィエト連邦の最高機関であったソ連邦人民代議員大会の代議員を務めた。

1994年 3月6日、テンギズ・アブラゼは生涯を閉じた。彼は、グルジア映画史において最も重要な監督の一人として記憶されており、その作品は故郷の文化や精神性を深く掘り下げつつ、普遍的な人間の苦悩や希望を描き出した傑作として、今なお多くの人々に鑑賞され続けている。特に「祈り三部作」は、彼の芸術的な遺産として、そして激動の時代を生きた人々の魂の記録として、今後も語り継がれていくであろう。

主要作品リスト

1953年 - 『我々の宮殿』（ドキュメンタリー、レヴァズ・チヘイゼと共作）
1954年 - 『国立グルジア民族舞踊団』（ドキュメンタリー、レヴァズ・チヘイゼと共作）
1955年 - 『青い目のロバ』または『マグダナのロバ』（レヴァズ・チヘイゼと共作）
1958年 - 『他人の子供たち』
1962年 - 『僕とおばあさんとイリコとイラリオン』
1965年 - 『スワネティのスケッチ』
1967年 - 『嘆願』または『祈り』
1971年 - 『愛する者への首飾り』
1972年 - 『青空の下の博物館（ダゲスタン）』
1977年 - 『幸せの樹』または『希望の樹』
1984年 - 『懺悔』
1989年 - 『ハジ・ムラート』

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