ディストリビューター

ディストリビューター：多気筒エンジンの心臓部

ディストリビューターは、ガソリンエンジンの点火システムにおいて、イグニッションコイルから発生した高電圧の点火電流を各気筒の点火プラグに適切なタイミングで分配する装置です。複数気筒を持つエンジンでは、各気筒への点火を正確に制御することで効率的な燃焼を実現するために不可欠な部品です。

ディストリビューターの構造と機能

ディストリビューターは、主に以下の３つの主要部品から構成されています。

1. ディストリビューターキャップ: 絶縁性の高いプラスチック製の円筒形で、中心部にイグニッションコイルからの電流を入力する電極と、周囲に各気筒の点火プラグへの出力電極を備えています。
2. ディストリビューターローター: キャップ内部で回転する腕木状の部品で、入力電極から受け取った電流を、回転によって各気筒の出力電極に順次分配します。エンジンの回転と同期して回転し、点火タイミングを制御します。
3. ディストリビューターシャフト: ローターを回転させるシャフトで、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトからギアを通じて駆動されます。通常、クランクシャフト2回転に対して1回転します。

ディストリビューターは、イグニッションコイルで生成された高電圧をローターを介してキャップ内の各電極に順次供給することで、各気筒に点火時期を制御しながら点火を行います。点火時期は、エンジンの回転数やアクセル開度などに応じて調整されます。

点火時期の制御：進角と遅角

ディストリビューターは、エンジンの効率的な運転のために、点火時期を調整する機構を備えています。

進角: エンジンの回転数が高くなると、燃焼室内の圧力上昇速度が速くなるため、点火時期を早める（進角）ことで、最適な燃焼を実現します。遠心式ガバナーなどによって回転数に応じて自動的に調整されます。
遅角: アクセル開度が小さい場合（エンジンブレーキ時など）は、混合気が薄くなるため、火炎伝播速度が遅くなります。この場合は、点火時期を遅らせる（遅角）ことで安定した燃焼を維持します。真空進角装置などが用いられます。

ディストリビューターの種類

ディストリビューターには、一次電圧を制御する方式によっていくつかの種類があります。

1. ポイント式: 機械的な接点（コンタクトポイント）を用いて一次電圧を制御する方式です。摩耗による調整や交換が必要なため、メンテナンスの手間がかかります。
2. セミトランジスタ式（セミトラ）: ポイント式の接点を電気スイッチに置き換えた方式です。ポイント式の欠点を軽減しますが、キャップの接点摩耗によるトラブルは残ります。
3. フルトランジスタ式（フルトラ）: 回転角センサーとイグナイターを用いて、完全に電子制御で一次電圧を制御する方式です。最も信頼性が高く、現在でも一部のエンジンで使用されています。

ディストリビューターレスイグニッション（DLI）

近年では、ディストリビューターを使用しないDLI方式が主流になりつつあります。DLIでは、各気筒に個別のイグニッションコイルを設置し、ECU（電子制御ユニット）が直接点火タイミングを制御します。これにより、点火時期の制御精度が向上し、燃費や排ガス性能の改善に貢献します。さらに、プラグコードを廃止したダイレクトイグニッションシステムも普及しています。

ディストリビューターの歴史と将来

ディストリビューターは、多気筒エンジンの普及に貢献した重要な部品ですが、電子制御技術の進歩に伴い、DLI方式に取って代わられつつあります。しかし、旧車などではメンテナンス部品として、また、レストア用途として現在も販売されています。その歴史と技術的な進化は、自動車技術の発展を物語るものです。

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