ロシア象徴主義

ロシア象徴主義：芸術運動の特異な展開

ロシア象徴主義は、19世紀末から20世紀初頭にかけてロシア帝国で支配的だった芸術運動です。ヨーロッパの象徴主義運動がロシアに流入し、文学や詩のみならず、美術、音楽、舞踏など多岐にわたる分野に影響を与えた点が、他国にはない特徴と言えるでしょう。

文学における象徴主義

ロシア象徴主義文学は、フョードル・チュッチェフの詩やヴラディーミル・ソロヴィヨフの哲学における非合理主義と神秘主義を根幹としています。さらに、リヒャルト・ワーグナーの楽劇、アルトゥール・ショーペンハウアーやフリードリヒ・ニーチェの思想、フランス象徴主義や頽廃主義の詩人（ステファヌ・マラルメ、ポール・ヴェルレーヌ、シャルル・ボードレールなど）、ヘンリク・イプセンの戯曲など、当時の西欧の文化思潮が複雑に絡み合って形成されました。

この運動の始まりは、ニコライ・ミンスキーの論文『昔の討論』（1884年）やディミトリー・メレシュコフスキーの著作『現代ロシア文学の衰退と新思潮』（1892年）に遡ります。両者とも、極端な個人主義を唱え、創造行為を神聖なものとして捉えました。メレシュコフスキーは、詩作に加え、イエス・キリストやジャンヌ・ダルクといった「神人」に関する小説でも知られていますが、後にアドルフ・ヒトラーを神人と崇めたことで批判を浴びました。妻のジナイーダ・ギッピウスも象徴主義運動初期の主要な詩人であり、サンクトペテルブルクで文学サロンを開き、「ロシア頽廃主義の本拠」として知られるようになります。

象徴主義の勃興と発展

1890年代半ばまで、ロシア象徴主義はまだ理論の域を出ず、目立った実践家は現れていませんでした。アレクサンドル・ドブロリューボフは1895年に詩学論を発表しましたが、その後は詩作を放棄し、象牙の塔の中で思索にふける日々を送ります。また、イヴァン・コネフスコイは若くして夭折しました。象徴主義が大きな運動として文壇に登場するには、ヴァレリー・ブリューソフの活躍を待つ必要がありました。

ブリューソフは、象徴主義が強力な運動であることを示すため、多数の筆名を使い分け、1894年と1895年に『ロシアの象徴主義者たち。詞花集』と題した3巻の詩集を出版しました。この戦略的な「煙幕」は成功し、多くの若い詩人が、最新の文学潮流として象徴主義に魅了されました。ブリューソフの他に人気を博したのは、最初のインスピレーションを重視し、あえて詩句を修正しないこともあったコンスタンティン・バリモントや、「死の吟遊詩人」を自称した悲観主義者のフョードル・ソログープなどが挙げられます。

これらの作家の多くは20世紀半ばまでにその名声を失いましたが、象徴主義運動の影響は依然として大きく、特にインノケンティー・アンネンスキーが重要な存在です。彼の最後の詩集『糸杉材の箱』は死後1909年に出版され、「呪われた詩人」のロシア版として評されることもあります。アンネンスキーは、ボードレールやヴェルレーヌの詩のニュアンスをロシア語で表現しようと試み、繊細な音楽性や暗示、不可解な語彙、色彩や芳香の微かな変化の魅力といった独自のスタイルを確立しました。彼の作風は、アクメイズムの詩人たち（アンナ・アフマートヴァ、ニコライ・グミリョーフ、オシップ・マンデリシタームなど）に大きな影響を与えました。

第二世代の登場と都市の象徴

ロシア象徴主義が本格的に開花したのは、20世紀に入って最初の10年間です。多くの才能ある新人が象徴主義の詩を発表し始め、哲学者ヴラディーミル・ソロヴィヨフから多大な影響を受けました。文学研究者で詩人のヴャチェスラフ・イヴァーノフは、古代詩に関心を抱き、イタリアから帰国後に文学クラブ「ディオニュソス派」をサンクトペテルブルクで設立しました。イヴァノフは、「古雅なジョン・ミルトンの言い回し」をロシアの詩歌に取り入れることを提唱しました。ロシア革命に関する詩で知られるマクシミリアン・ヴォローシンは、クリミアの別荘で詩のサロンを開いていました。アレクサンドル・スクリャービンと親交のあったユルギス・バルトルシャイティスは、神秘的な哲学や魔術的な響きが特徴的な詩を故郷のリトアニアで書いていました。

この新世代の詩人の中でも、特にアレクサンドル・ブロークとアンドレイ・ベールィは、ロシア象徴主義運動全体で最も重要な詩人となりました。ブロークは、20世紀ロシアの詩壇を代表する詩人の一人であり、アレクサンドル・プーシキンと並び称され、ロシア詩の「銀の時代」は「ブロークの時代」とも呼ばれます。彼の初期の詩は音楽的で豊かな響きを持ち、後期にはリズムの変則や不規則な韻律を取り入れました。成熟期の作品では、プラトン的な美の理想と、工業地帯の陰鬱な現実生活との矛盾が描かれています。ブロークの代表作として、革命下のペトログラードを行進するボルシェヴィキ軍を、宗教的な文体で描いた詩『十二人』が有名です。

アンドレイ・ベールィは、散文、韻文、音楽の統合を試み、初期の作品には「交響曲」と名付けられた散文詩があります。彼の名声は、モダニズム小説『ペテルブルク』（1911年 - 1913年）など、象徴主義以降の作品によるものが大きいです。『ペテルブルク』は哲学的、宗教的な作品であり、その独特な語り口や暗示、リズムの実験は特徴的です。この作品は、ウラジーミル・ナボコフによって、ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』に次いで、20世紀で2番目に重要な小説と評価されています。ベールィのその他の重要な作品として、文学理論小論集『象徴主義』（1910年）や、新生児の意識の芽生えを描いた小説『魂の遍歴（Котик Летаев）』（1914年 - 1916年）があります。

サンクトペテルブルクという都市そのものが、ロシア象徴主義の第二世代にとって重要なシンボルとなりました。ブロークは、この都市を「千の幻想の都市」や、滅びゆく世界の象徴として描いています。また、自然の力（日昇と日没、光と闇など）は、黙示録的な様相を帯び、大災害の前兆として表現されています。第二世代の詩人の作品には、しばしばスキタイやモンゴル人が登場し、未来の戦争を象徴しています。ロシア象徴主義運動には終末論的な傾向があり、ブロークやベールィ、ブリューソフを含む多くの詩人が、ロシア革命を歴史の進化の一歩と捉えていました。

その他の象徴主義文学

フョードル・ソログープは、世紀末の文学や哲学に特徴的な悲観的な要素を、ロシアの散文に取り入れた最初の作家です。彼の最も有名な小説『小悪魔』（1902年）は、「ポシュロスチ（poshlost'）」と呼ばれる、邪悪さと凡庸さの中間にある人物像を鮮やかに描いています。大作『創造される伝説』（1914年）は、「血の涙」「女王オルトルーダ」「煙と灰」の三部からなる長編小説であり、多くの登場人物が登場しますが、比較的に楽観的で希望に満ちた世界観を示しています。

ヴァレリー・ブリューソフの小説『熾天使』（炎の天使）も有名です。16世紀のドイツを舞台に、秘術や悪魔との関わりによって精神を蝕まれた女性と、その情欲を抑えようとする学者の物語を描いています。この小説は、セルゲイ・プロコフィエフの歌劇『炎の天使』の原作となりました。

アレクセイ・レーミゾフは、主に散文作品を書いた唯一の象徴主義作家です。中世ルーシの文学を引用しながら、夢、現実、気まぐれをグロテスクに結び付けています。

運動の終焉

1910年代になると、ロシア象徴主義は文壇での勢いを失いました。その担い手たちは、『天秤宮（Весы）』や『金羊毛（Золотое руно）』、『峠道（Перевал）』といった雑誌で対立し、主要な出版社の経営権を得ようと争いました。多くの若い詩人は、象徴主義の過剰さから距離を置くアクメイズム運動に惹かれ、また、既存の芸術慣習を否定し、芸術の完全性を再構築しようとするロシア未来派に加わる者もいました。

美術における象徴主義

ロシア象徴主義の画家として最も重要な人物は、ミハイル・ヴルーベリでしょう。ヴルーベリは、モザイク状のカンバスに描かれた「坐せるデーモン」で有名になりましたが、力強く禍々しい「俯いたデーモン」（1902年）を制作中に精神を病んでしまいます。

雑誌『芸術世界』と関わりのある画家には、ピュヴィ・ド・シャヴァンヌを模倣したヴィクトル・ボリソフ＝ムサートフ、中世ルーシの歴史に題材を求めたミハイル・ネステロフ、「都市の幽霊」を描いたムスティスラフ・ドブジーンスキー、秘儀的で密教的と評される画風のニコラス・レーリヒなどがいます。

音楽と演劇における象徴主義

最初の象徴主義の作曲家であるアレクサンドル・スクリャービンは、『交響曲第1番』で芸術を宗教として称えました。『交響曲第3番「神聖なる詩」』は、「汎神論から宇宙との一体化へと至る人類の精神の進化」を表現しようとしています。『交響曲第4番「法悦の詩」』は、人類の創造力と、倦怠や至福を謳い上げています。『交響曲第5番「プロメテ―火の詩」』では、色光ピアノによって色彩がスクリーンに投影される予定でしたが、実現には至りませんでした。

スクリャービンは、未完に終わった舞台音楽『神秘劇』で、演奏、詩、舞踊、色彩、芳香を統合し、「究極の法悦」を人類にもたらそうとしました。この「すべての芸術分野の舞台における融合」という考え方は、アンドレイ・ベールィやワシーリー・カンディンスキーも共有していました。

演劇の世界では、『桜の園』などのチェーホフ後期の戯曲が象徴主義の影響を受けていると評されています。しかし、コンスタンチン・スタニスラフスキーは、最初の公演で写実的な演出を心がけました。象徴主義演劇の頂点として挙げられるのは、メイエルホリドによるアレクサンドル・ブロークの『人形劇』の上演（1906年）です。スタニスラフスキーは、その後、モスクワ芸術劇場でモーリス・メーテルランクの戯曲『青い鳥』を上演し、国際的な評価を得ました。

ニコライ・エヴレイノフは、演劇は我々を取り巻くすべてであり、自然界は演技に満ちていると主張しました。例えば、砂漠の花は岩石を模倣し、ネズミは猫から逃れるために死んだふりをします。演劇とは、エヴレイノフ曰く、存在の普遍的な象徴なのです。一方、アントン・チェーホフの甥である俳優のミハイルは、象徴主義的な演出法を発展させ、今日でもスタニスラフスキーの演出法と人気を二分しています。

ロシア象徴主義