ディルドリン

ディルドリン：その歴史、用途、そして毒性

ディルドリンは、1948年に殺虫剤として合成された有機塩素系化合物です。ナフタレンを基本骨格とする環状構造を持つこの物質は、高い殺虫効果を示し、農薬として広く使用されるようになりました。特に、野菜や果樹の害虫駆除に効果を発揮し、日本では1954年に農薬登録を受けています。

当初は、ウリバエ、ネギハモグリバエ、ダイコンシンクイムシといった野菜の害虫や、ブドウカミキリムシ、ミカンハモグリガなどの果樹害虫、さらにはジャガイモのケラなど、幅広い害虫の駆除に用いられました。しかし、その高い残留性と毒性が次第に問題視されるようになります。

1970年代に入ると、乳製品や野菜などの農産物からディルドリンが検出される事例が相次ぎました。これを受け、1971年には土壌残留性農薬に指定され、用途がマツクイムシなどの樹木害虫駆除に限定されました。その後、1975年には農薬登録が失効し、羊毛製品の防虫加工への使用も1978年に規制されました。

ディルドリンの毒性は高く、ラットに対する経口投与の半数致死量は38.3mg/kg、マウスでは24mg/kg、経皮投与では56mg/kgと報告されています。人体への影響としては、頭痛やめまい、嘔吐、意識消失、肝機能障害や腎機能障害といった重篤な症状が現れる可能性があります。

日本では、ディルドリンを含む殺虫剤を使用したことによる健康被害を訴える訴訟も起こっています。1969年、ゴキブリ退治用エアゾール製品使用後に、歩行困難やめまい、しびれなどの後遺症が残った男性が、メーカーと国を相手取り損害賠償請求訴訟を起こし、1972年に和解が成立しています。

これらの問題を受けて、1981年には化学物質審査規制法に基づき、第一種特定化学物質に指定され、シロアリ駆除や合板の防虫加工など、全ての用途での製造、販売、使用が禁止されました。現在では、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されています。

ディルドリンは、その高い殺虫効果が認められた一方で、残留性と毒性という大きな問題を抱えていた農薬です。その歴史は、農薬の安全性と環境への影響を改めて考えさせる、重要な事例となっています。ディルドリンの事例は、農薬開発における安全性確保の重要性、そして環境保護の必要性を強く訴えかけています。今後の農薬開発においては、このような教訓を活かし、安全で環境負荷の低い物質の開発と利用が不可欠です。

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