デソート

デソート：クライスラーが築き上げた高級車ブランドの栄光と終焉

デソートは、アメリカを代表する自動車メーカー、クライスラー社が1928年から1961年まで展開した自動車ブランドです。同社創設期に誕生したデソートは、当初、廉価車ブランドのプリムスと対をなす上級車ブランドとして位置づけられました。ブランド名は、スペインの探検家、エルナンド・デ・ソトに由来しており、そのエンブレムにも彼のイメージが用いられています。クライスラーは、ゼネラルモーターズやスチュードベイカーといった競合他社に対抗するため、デソートを新たな戦力として投入したのです。

デソートの最初のモデルは、同社の別ブランドであるダッジよりも低い価格帯に設定されました。これは、1929年のダッジ・ブラザーズ買収というクライスラー社の経営戦略に端を発します。クライスラー社はダッジを中級路線に据えることを決定したため、デソートはダッジと競合する関係となりました。しかしながら、第一次世界大戦後の経済状況下においても、デソートはダッジよりも堅調な販売実績を上げ、1932年には2万5千台を売り上げる成功を収めました。

しかし、クライスラー社はその後、ダッジブランドの強化を優先する方針へと転換します。そのため、1934年までにデソートはダッジよりも上位の価格帯へと移行せざるを得なくなりました。これにより、ダッジよりもホイールベースが短いエアフローボディを採用したデソートは、1935年のエアストリーム販売開始まで苦戦を強いられました。

デソートは技術革新にも積極的に取り組みました。1942年には、量産車としてはコード810に次ぐ2番目となるポップアップ式ヘッドライトを搭載したモデル「エアフォイル」を発表しました。これは夜間はライトが見えないというユニークな特徴を持っていましたが、第二次世界大戦による民生用モデル生産の中止により、短命に終わってしまいました。戦後、生産が再開された際には、ヘッドライトは通常型に変更されています。

第二次世界大戦後の1946年、デソートは生産を再開します。1948年までは戦前のモデルの再生産が続けられましたが、戦後帰還兵による需要拡大を受け、安定した販売を続けました。1952年には、ヘミエンジンを搭載した「ファイアドーム」シリーズを発表。ファイアドーム、アドベンチュアラー、カスタム、ファイアフライト、ファイアスウィープといった派生モデルがラインナップされ、一時デソートのトップラインとして君臨しました。しかし、後に直列6気筒エンジン搭載の「パワーマスター」が登場すると、V8エンジンのファイアドームシリーズはエントリーモデルに格下げされました。

1950年代後半になると、経済不況の影響を受け、デソートは深刻な販売不振に陥ります。これはデソートに限った問題ではなく、中級車市場全体が低迷していた背景もありますが、クライスラー社が1955年により高級な「インペリアル」ブランドを設立したことも、デソートの販売低迷に拍車をかけました。1958年には前年比60％もの販売減を記録し、1959年から1960年にかけても販売低迷は続き、40％もの減少を経験しました。

そして1960年秋、新型モデル「アドベンチャー」の発表後、デソートの販売終了が噂されるようになります。そして1961年、クライスラー社はデソートの後継モデルとなる「クライスラー・ニューポート」を発表しました。ニューポートは、デソートのコンセプトと重複するものであったため、デソートの終了は決定的となりました。1960年11月30日、クライスラー社はデソートの生産終了を発表。在庫がなくなった翌1961年に、33年の歴史に幕を閉じました。

デソートは、その短い歴史の中で、約200万台もの車両を生産しました。個性的なデザインと技術革新で知られるデソートは、自動車史に独特の足跡を残したと言えるでしょう。様々なモデルが市場に投入され、それぞれに魅力がありましたが、市場環境やクライスラー社内でのブランド戦略の変化によって、その歴史は閉ざされていきました。

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