デッサウ市電

ドイツ中部、ザクセン＝アンハルト州に位置する都市、デッサウ＝ロスラウ市内で運行されている路面電車は、デッサウ市電（ドイツ語: Straßenbahn Dessau）と呼ばれます。その運営は、2021年現在、デッサウ市内で公共交通事業を手掛けるデッサウ交通会社（Dessauer Verkehrsgesellschaft mbH、略称: DVG）によって担われています。

歴史

デッサウ市電のルーツは、1894年 11月15日に営業を開始したデッサウ軌道（Dessauer Straßenbahn-Gesellschaft）に遡ります。これは動力源に高圧ガスを用いたガス鉄道という、ドイツ国内でも極めて珍しい形態の軌道でした。ドイツ・コンチネンタルガスをはじめとするガス関連企業が多数出資しており、当初電化も検討されたものの、開業直前に高圧ガス方式が採用されたという経緯があります。開業翌年の1895年には、事業者はドイツガス鉄道（Deusche Gasbahn Gesellschaft）へと社名を変更しました。

当初は高圧ガスボンベを搭載した動力車が運行されていましたが、1897年以降は輸送力増強のため、高圧ガス機関車が客車を牽引する方式に切り替えられました。路線網の拡張も進められましたが、脱線事故やガスボンベの爆発といった事故が相次ぎ、利用客の減少を招きました。事態を重く見た株主からは、事業清算が求められる状況にまで至りました。

こうした状況を受け、高圧ガス方式の路線を当初検討されていた電化方式の路面電車に転換することが決定されます。1900年の株主総会での承認を経て、1901年 3月には全線が電化され、近代的な路面電車として再出発しました。

電化完了時（1901年）の総延長は9.2kmで、電動車13両、付随車4両の計17両が在籍していました。その後、需要の増加に合わせて路線の延伸や車両の増備が進められます。第一次世界大戦中の輸送力不足や、戦後のハイパーインフレーションといった困難はありましたが、地元のデッサウ客貨車製造などで製造された車両を中心に増備が続けられました。第二次世界大戦が始まると、燃料不足で運行が困難になった路線バスの代替として、路面電車の路線網がさらに拡張されました。1945年には総延長が14kmに達し、他都市からの譲渡車両を含めて68両（電動車38両、付随車30両）もの車両が在籍していましたが、同年3月7日の空襲によりデッサウ市街は壊滅的な被害を受け、市電施設もまた甚大な損傷を負い、運行停止を余儀なくされました。復旧作業が開始されたのは終戦後の8月15日でしたが、ロスラウ方面への路線は復旧せず、総延長は9.7kmに縮小しました。

戦後、東ドイツ領となったデッサウ市電の運営組織は何度かの再編を経ました。1951年からは公営のデッサウ交通公社（VEB (K) Dessauer Verkehrsbetriebe）が、1982年からはハレ複合交通公社（Verkehrskombinat Halle）の傘下として運営されます。この間、東ドイツ製の2軸車の導入やワンマン運転の実施など、近代化と効率化が進められましたが、路線バスを重視する都市開発の影響で、1971年に3号線、1974年に2号線が相次いで廃止され、その後長い間1号線のみの運行となりました。酷使されてきた東ドイツ製の2軸車も老朽化が進行しましたが、1987年には都市開発計画の一環として、2号線の一部区間が復活開業しています。

ドイツ再統一後の経済状況の変化に伴い、デッサウ市電の運営組織も民営化へと移行しました。1990年にいったんデッサウ市直営となった後、1993年からは市が所有するDVVシュタッドウェルケ傘下のデッサウ交通会社が運営を担うことになりました。1990年代以降、デッサウ市電では路線や施設の近代化、旧型2軸車の置き換えとなる新型車両の導入などが積極的に進められました。特に大規模なプロジェクトとして挙げられるのが、1997年に計画が始まり1998年に建設が開始されたデッサウ西部への延伸です。この延伸は2000年と2002年の二段階に分けて行われ、デッサウ市電の総延長は12.9kmまで伸びました。しかし、その後クロイツベルク通り方面へ向かっていた4号線は利用客の減少により、2016年 7月3日をもって路線バスに転換される形で廃止され、2021年現在では2系統が運行されています。

運用

2021年現在、デッサウ市電は以下の2系統で運行されています。

系統1
系統3

運賃はデッサウ交通会社および関連会社の路線バスと共通体系となっており、例えば1回の乗車は1.8ユーロ、60分有効な5回券は8.2ユーロで販売されています（価格は2021年時点）。

車両

現有車両

2021年現在、デッサウ市電の主力営業用車両は、ボンバルディア・トランスポーテーション製の部分超低床電車フレキシティ・クラシック（NGT6DE形）です。これは前後で長さが異なる片運転台式の2車体連接車で、長い方の車体（前方）には車軸を持たない独立車輪式の付随台車が連接部付近に設置されています。車内の低床率は45%となっています。2001年から2002年にかけて10両（301-310）が導入され、2021年現在も全車が営業運転に用いられています。特徴として、市電独自の標準塗装は存在せず、全車両が広告塗装となっています。

保存・団体用車両

GT8形 - ドイツ再統一後、老朽化した旧東ドイツ製の2軸車を置き換える目的で導入された3車体連接車です。デュースブルク市電からの譲渡車両で、1992年に合計14両（001-014）が導入され、車両の近代化や輸送力向上に貢献しました。しかし、1960年代製造の車両ゆえにこちらも老朽化が進み、超低床電車によって置き換えられました。2021年現在、1965年製の1両（007）のみが団体用車両として車内改装の上で残存しており、乗務員の訓練や教習にも活用されています。
動態保存2軸車 - 動態保存車両としては、2両の旧型2軸車が現存しています。1両（Tw 28）は1987年にライプツィヒ市電から譲渡された車両、もう1両（Tw 30）は地元のデッサウ客貨車製造で製造され、戦災を経て1948年に車体更新が行われた車両です。これらは定期的な保存運転に加え、貸切運行にも対応しています。

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