デメトリオス1世 (バクトリア王)

デメトリオス1世は、紀元前2世紀にグレコ・バクトリア王国を統治した王であり、その治世は王国史上最も重要な時期の一つとされています。彼は、エウテュデモス1世の息子として生まれ、父の死後、王位を継承しました。

父の時代と和平

父エウテュデモス1世の時代、グレコ・バクトリア王国はセレウコス朝のアンティオコス3世による侵攻を受けました。この侵攻に対し、エウテュデモス1世は2年間の籠城戦を繰り広げ、最終的に和平交渉へと持ち込みました。この時、王子であったデメトリオスは、アンティオコス3世の娘と婚約しています。この出来事は、後のデメトリオス1世の治世に大きな影響を与えたと考えられています。

インドへの侵攻

父の死後、王位を継承したデメトリオス1世は、ヒンドゥークシュ山脈を越えてインドへの遠征を開始しました。彼の軍勢はまず、アリアネ地方を制圧し、アリオイ、ドランガイ、エウエルゲタイ、アラコトイ、パロパミサダイなどの諸族を支配下におきました。この時の状況について、古代ギリシャの地理学者ストラボンは、デメトリオス1世がアラビア海にまで達したと記述しています。

その後、デメトリオス1世はガンダーラ地方に進出し、これを制圧しました。当時、インドではマウリヤ朝が将軍プシャミトラ・シュンガによって滅ぼされ、国内が混乱していたため、デメトリオス1世の西北インド征服は比較的容易に進んだと考えられています。この征服を記念してか、デメトリオス1世のコインには、象の頭をかたどった兜をかぶった肖像が刻まれており、銘文にはギリシャ文字とインドのカローシュティー文字が併用されています。このコインは、彼の支配が東西の文化的な融合を示している象徴的な遺物と言えるでしょう。

その後と後継者

デメトリオス1世は、インド征服後間もなく亡くなったとされ、弟のアンティマコス1世が王位を継承しました。彼の治世は短かったものの、その影響は大きく、グレコ・バクトリア王国の最盛期を築いた人物として歴史に名を残しています。

子女

デメトリオス1世には、以下の3人の息子がいたことが知られています。

デメトリオス2世：インド・グリーク王（紀元前180年 - 紀元前165年）
アガトクレス：インド・グリーク王（紀元前180年 - 紀元前165年）
* パンタレオン：インド・グリーク王（紀元前185年 - 紀元前175年）

これらの息子たちは、それぞれがインド・グリーク王として活躍し、デメトリオス1世の遺産を引き継いでいきました。

デメトリオス1世は、軍事的才能と政治的手腕に優れ、グレコ・バクトリア王国を大きく発展させた偉大な王でした。彼のコインに刻まれた象の兜は、彼のインドにおける征服と、その後の東西文化の融合を象徴しています。彼の治世は、グレコ・バクトリア王国の歴史において、重要な転換点となったと言えるでしょう。

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