ガンダーラ

ガンダーラ王国：古代文明の交差点

ガンダーラ王国は、現在のインド北西部とアフガニスタン東部に位置した古代王国です。紀元前6世紀から11世紀にかけて存在し、その歴史はペルシア帝国、アレクサンドロス大王、マウリヤ朝、インド・グリーク朝、クシャーナ朝、そしてイスラム勢力など、様々な勢力の支配下で展開しました。地理的には、カーブル川流域からインダス川流域、ペシャーワル渓谷を含む広大な地域を領土とし、東西交易路の要衝として国際的な商業都市としても繁栄しました。首都は時代によって異なり、チャルサッダ、タクシラ、ペシャーワルなどが挙げられます。

ペルシア帝国からの支配とアレクサンドロス大王の侵攻

ガンダーラの歴史は、紀元前6世紀のアケメネス朝ペルシア帝国の支配に始まります。キュロス大王かダレイオス1世によって征服され、ペルセポリスの碑文にもその名が刻まれています。その後、ギリシャの歴史家ヘロドトスはガンダーラをペシャワール渓谷として記述しています。紀元前4世紀頃にはペルシアの支配が弱まり、多くの小王国が割拠する状態となりました。紀元前327年、アレクサンドロス大王がガンダーラに侵攻しましたが、短期間の滞在に終わり、その後はマウリヤ朝が支配下に収めました。

マウリヤ朝とインド・グリーク朝

紀元前305年、マウリヤ朝のチャンドラグプタ王がセレウコス朝を破り、ガンダーラを含むアフガニスタン南部を支配しました。その後1世紀半に渡り、マウリヤ朝による安定した統治が行われました。特にアショーカ王は熱心な仏教徒として知られ、ガンダーラに多くの仏塔を建立しました。マウリヤ朝衰退後、ギリシア系のグレコ・バクトリア王国が台頭し、紀元前185年頃にはデメトリオス1世がガンダーラを征服。その後、インド・グリーク朝が支配するようになり、メナンドロス1世は仏教に帰依した王として有名です。彼の治世は、ガンダーラにおける仏教文化の発展に大きな影響を与えました。『ミリンダ王の問い』は、この時代の仏教思想を知る上で重要な文献です。

クシャーナ朝とガンダーラ美術の黄金期

インド・グリーク朝後、クシャーナ朝が台頭し、ガンダーラは黄金時代を迎えました。1世紀から5世紀にかけて、クシャーナ朝、特にカニシカ王の治世下で、ガンダーラ美術は最盛期を迎えました。仏教美術が大きく発展し、多くの仏塔、仏寺、仏像が建造されました。ペシャーワルには高さ120メートルにも及ぶ巨大な仏塔が建立されたと伝えられています。ガンダーラ美術は、ギリシャ・ローマの様式とインドの様式が融合した独特の様式であり、後の東アジアの仏教美術にも大きな影響を与えました。

衰退とイスラム支配

5世紀以降、エフタルなどの遊牧民族の侵入や、サーサーン朝との争いなどにより、ガンダーラの勢力は衰え始めました。6世紀にはサーサーン朝が一時的にエフタルを駆逐しましたが、その後イスラム勢力の台頭によって、ガンダーラはイスラム支配下に入ります。7世紀以降、ヒンドゥー教の影響力が増し、仏教寺院は放棄されていきました。ガンダーラの地名は歴史の表舞台から姿を消し、現在のアフガニスタン南部に名残を留めているという説もあります。ガンダーラ美術は、その独特の様式と仏教文化への影響から、現在でも世界的に高く評価されています。ガンダーラの歴史は、古代文明における宗教、文化、政治的変遷を理解する上で重要な位置を占めています。

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