デルタ III

デルタIII (Delta III)

デルタIIIは、[アメリカ合衆国]]の航空宇宙企業ボーイング社によって開発された、静止トランスファ軌道]へ人工衛星などのペイロードを投入することを目的とした使い捨て型のロケットです。1990年代、人工衛星の重量が増加の一途をたどる中で、当時の主力ロケットであったデルタIIでは将来的に対応が困難となることが見込まれていました。これに対応するため、[[ボーイング社はより大きなペイロードを運べる能力を持ち、さらに競争力のある価格設定と効率的な射場運用を目指した新型ロケットとして、デルタIIIを開発しました。技術的には「デルタ8930」とも呼称されます。

デルタIIIは、従来のデルタロケットシリーズの技術を継承しつつ、大幅な改良が加えられました。第1段には、デルタIIと同等のケロシン/液体酸素推進剤を使用するエンジンが採用されましたが、全長を短縮し、高高度での横風に対する姿勢制御を改善するための変更が加えられています。特に、ケロシン燃料タンクは直径が4メートルに拡大され、液体酸素タンクのように直径8フィートの従来の設計から刷新されました。これは、全長を抑えるためであり、日本の三菱重工業によって製造されました。この第1段の変更は、より大きな上部構造を支えるためでもあります。

上段には、高性能な液体水素/液体酸素を推進剤とするプラット&ホイットニー製のRL10エンジンが搭載されました。このRL10エンジンは、新型のRL10B-2仕様であり、宇宙空間で伸展するカーボン複合材製のノズル（フランスSEP社製）を備え、燃焼効率を高めています。上段の構成は特徴的で、直径4メートルの大型液体水素タンク（三菱重工製、スペースシャトル外部タンクと同等の断熱材で覆われている）と、直径2.4メートルの液体酸素タンクが分離して配置されていました。

さらに、推力を増強するため、デルタIIよりも大型化された固体燃料補助ロケットが9基搭載されました。これらはアリアン社製の「GEM-46」（GEM LDXLとも呼ばれる）で、デルタIIのGEM（全長13m、直径1.01m）に対し、全長14.7メートル、直径1.17メートルと大型化されています。打ち上げ時には、まず6基が地上で点火され、飛行中に残りの3基が点火される方式でした。姿勢制御のために、9基のうち3基には推力偏向ノズルが装備されていました。ペイロードを保護するフェアリングも大型化されたペイロードに対応し、複合材料製で上段の4メートル径の水素タンクと適合する設計となりました。

デルタIIIは、静止トランスファ軌道へ約3,800 kg（8,400 ポンド）のペイロードを投入する能力を持ち、これはデルタIIの約2倍に相当しました。計画費用は1機あたり8,500万ドルと見積もられていました。しかし、その運用は順調ではありませんでした。1998年8月27日にケープカナベラル空軍基地から行われた最初の打ち上げは失敗に終わりました。原因は、デルタIIから引き継いだ第1段の飛行誘導コンピュータのソフトウェア不具合と、それに伴う油圧装置の減圧による制御喪失で、機体は破壊され、搭載していたギャラクシーX衛星は大西洋に墜落しました。

続く1999年5月4日の2度目の打ち上げも再び失敗となりました。今度は第2段のエンジンが燃焼中に圧力異常を検知して停止し、オリオン3衛星は予定とは異なる不適切な軌道に投入されてしまいました。

3度目の打ち上げは2000年8月23日に行われ、DM-F3という模擬ペイロードを搭載しました。これは、通信衛星を模したダミーであり、多数のセンサーで機体の状態を監視するためのものでした。この打ち上げでは、最終的に目標よりやや低い軌道（予定185 x 23,404 kmに対し、実際180.76 x 20,694 km）に到達しましたが、ボーイング社はこの結果を成功と発表しました。

しかしながら、度重なる初期の失敗により顧客からの信頼を得ることは難しく、同時期に衛星打ち上げ市場が縮小傾向にあったこと、そしてボーイング社が開発を進めていたより新型で高性能なデルタIVロケットや、共同開発のシーローンチ計画が実用化されつつあったことから、この3回目の打ち上げがデルタIIIにとって最後の飛行となりました。結局、デルタIIIは商業的な成功を収めることなく退役しましたが、その開発過程で得られた技術や使用された部材は、後継機であるデルタIVの開発に活かされることとなりました。

運用終了後、その技術的詳細は後継機の開発に引き継がれ、デルタIII自体が再投入されることはありませんでした。短い生涯ながらも、大型衛星時代の幕開けに対応しようとした技術的な試みとして、宇宙開発史の一頁を飾ったロケットと言えます。

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