デルポイの巫女 (ミケランジェロ)

ミケランジェロの『デルポイの巫女』：美と予言、そして聖母マリアとの繋がり

ミケランジェロ・ブオナローティによって1512年に制作されたフレスコ画『デルポイの巫女』は、システィーナ礼拝堂の天井画を飾る傑作の一つです。この作品は、ギリシア神話やローマ神話に登場するアポロンの巫女、シビュラを主題としており、その中でもデルポイのシビュラを描いています。システィーナ礼拝堂の天井画は、旧約聖書の創世記をテーマにした9つの場面を中心に構成されており、『デルポイの巫女』は、その最後のベイに『ノアの泥酔』と『預言者ヨエル』と並んで描かれています。

作品の構成と象徴性

『デルポイの巫女』は、天井画の中で旧約聖書の場面を囲むように配置された7人の預言者と5人の巫女の一人として描かれています。ミケランジェロは、デルポイの巫女をシビュラの中で最も若く美しい女性として表現しました。彼女は左手に予言の巻物を持っていますが、その視線は巻物ではなく、隣接する三角壁に描かれた『ユディトとホロフェルネス』に向けられています。この驚きに満ちた表情や、聖霊の風を受けて翻る衣服は、彼女の内面の感情を豊かに物語っています。

美術史家シャルル・ド・トルナイは、ミケランジェロが巫女たちを異教的な無知ゆえに限定的な予言能力しか持たない存在として描いたと指摘しています。『デルポイの巫女』の場合、その無知は幼さゆえの内的経験の不思議さとして表現されています。彼女の姿は、ヤコポ・デッラ・クエルチャの彫刻『賢明』や、ミケランジェロ自身の初期作品『ピッティのトンド』、『聖家族』など、他の作品からの影響も見て取れます。

聖母マリアとの関連性

興味深いのは、『デルポイの巫女』が聖母マリアの勝利を象徴するユディトの隣に配置されている点です。フィリッポ・バルビエーリの著作によれば、デルポイの巫女は聖母マリアの誕生、受難、磔刑、復活について多くの詩を書き記したとされています。このことから、デルポイの巫女は聖母マリアと共通するイメージで表現され、キリストの死を予兆する『ノアの泥酔』の真下に配置されたと考えられます。

色彩とフォルムの美しさ

『デルポイの巫女』は、そのデッサンの美しさでも際立っています。特に、巫女の腕やプットーの背中の肉付きは、天井画全体の中でも特に美しい部分として評価されています。美術史家フレデリック・ハートは、本作品を「フォルムの統制と韻律的な広やかさにおいて高い次元に到達している」と評しました。外衣のオレンジ色や青の裏地、そして肌の色彩は、光の明暗によって豊かな変化を見せ、作品に深みを与えています。

修復による色彩の復元

1980年から1989年にかけて行われた修復作業によって、過去の加筆や変色したワニスが除去され、制作当時の色彩が取り戻されました。これにより、『デルポイの巫女』は、その本来の美しさを再び鑑賞者に届けることができるようになりました。

『デルポイの巫女』は、ミケランジェロの卓越した技量と深い知識、そして聖母マリアへの敬意が込められた傑作です。システィーナ礼拝堂を訪れる際には、ぜひこの作品をじっくりと鑑賞し、その背後に秘められた物語に思いを馳せてみてください。

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