デルリン

デルリン：多様な用途に用いられるエンジニアリングプラスチック

デルリン、あるいはポリオキシメチレン(POM)は、ホルムアルデヒドを原料とするポリアセタール樹脂の一種です。デュポン社が1952年頃に初めて合成し、1956年に特許を取得、1960年には生産工場が完成しました。軽量で滑らかな表面を持ち、90℃以上の高温にも耐える高い耐熱性に加え、優れた耐水性を備えています。これらの特性から、金属の代替材料として様々な分野で活用されています。

デルリンの特性と用途

デルリンは、その高い耐久性と加工性の良さから、多岐にわたる用途に用いられています。

食品工業: [アメリカ食品医薬品局]の認可を受けており、食品関連機器にも使用されています。
玩具: マテル社の[ホットウィール]では、車輪のベアリングとして採用されました。摩擦係数が低いため、スムーズな回転を実現していました。
ペイントボール: 銃器の部品(ネジやポンプの握りなど)として広く用いられています。軽量で強度があり、滑らかな表面は操作性にも優れているため、好んで使用されています。
ベアリング: 耐溶媒性と低摩擦係数の特性から、特に腐食性のある環境下でのベアリングとして有効です。ニードルローラベアリングやボールベアリングが使用できない場面で高い信頼性を発揮します。
楽器: 近年では、アイリッシュフルートやティンホイッスルの製造にも使用されています。木製や金属製の従来品と比較して、熱や乾燥による影響を受けにくく、安定した音質を維持できる点が評価されています。
ギターピック: 耐久性に優れ、特にラウンドワウンド弦を使用する場合、ナイロン製よりも磨耗が少ないため、人気があります。また、セルロイドやPVC製の弦を傷つけることがなく、快適な演奏性を実現しています。
チェンバロ: 鍵盤を押した際に弦を引くプレクトラムの素材として使用されています。従来の鳥の羽軸に比べて耐久性が高く、変質もしにくい点が評価されています。
安全錠: 耐磨耗性が求められる安全錠の機構部品にも使用されています。密度の低さからX線による検査にも対応可能です。
オートバイ用品: フレームスライダーや膝の保護具など、軽量で衝撃吸収性に優れた素材が求められる用途にも使用されています。
潜水用具: 軽量で、圧力がかかってもガス漏れしにくいことから、潜水用具の素材としても利用されています。

デルリンと代替材料

デルリンと類似の特性を持つ材料として、ナイラトロン(Nylatron)があります。ナイラトロンはデルリンよりも軽量ですが、膨潤しやすいという弱点があります。膨潤は部品の故障や破損につながるため、使用環境によってはデルリンがより適している場合があります。また、ナイロン系材料はデルリンよりも摩耗に強い反面、湿気には弱く、湿度の高い環境や水中での使用には適していません。

デルリンの加工と接着

デルリンは一般的に接着が難しい材料ですが、表面処理によって接着性を向上させることができます。エッチング、炎処理、機械削磨などが代表的な表面処理方法であり、これによりエポキシ系、ポリウレタン系、シアノアクリレート系などの接着剤を使用できるようになります。デュポン社は「サテン仕上」と呼ばれる独自の表面処理技術を開発しています。これは、アセタールホモポリマーを加工し、表面に引っかかりとなる点を作ることで接着性を高める技術です。

アセタール樹脂は耐溶媒性が高いため、有機溶剤を用いた溶接は困難です。熱による溶接はホモポリマーとコポリマーの両方で可能です。

デルリンの種類

デルリンはアセタールの単独重合体(ホモポリマー)と共重合体(コポリマー)があります。ホモポリマーは成形時に空隙率が問題となる場合があり、信頼性の低下につながる可能性があります。そのため、信頼性が求められる部品にはコポリマーがしばしば使用されます。

まとめ

デルリンは、その優れた特性と多様な加工性から、様々な分野で活用されている重要なエンジニアリングプラスチックです。軽量性、耐熱性、耐水性、低摩擦係数といった特徴は、他の材料では代替できない多くの用途に適しています。しかし、接着性の低さやホモポリマーの空隙率といった課題もあり、用途に応じて適切な材料を選択することが重要です。

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