デンマーク領インド

デンマーク領インド：知られざる植民地の歴史

デンマーク領インド（デンマーク語: Dansk Ostindien）は、17世紀から19世紀にかけてデンマーク（1814年まではデンマーク＝ノルウェー）がインド亜大陸に保有した植民地の総称です。デンマーク植民地帝国の一部であり、現在のタミル・ナードゥ州のタランガンバディ（トランケバル）、西ベンガル州のセランポール、アンダマン・ニコバル諸島の一部などに拠点が置かれました。

デンマーク領インドの成立と展開

17世紀、香辛料貿易で成功したオランダやイギリスに触発され、デンマークもアジア貿易への参入を目指しました。1616年、クリスチャン4世はデンマーク東インド会社を設立し、アジアとの貿易独占権を与えました。しかし、資金調達の遅れや、派遣した貿易船の多くが失われるなど、初期の植民地経営は困難を極めました。

1620年、オーヴ・ゲデ提督率いる艦隊がトランケバルに到達し、現地のナーヤカ朝との交渉により、貿易拠点と砦の建設許可を得ました。これがデンマーク領インドの始まりです。その後、マチリーパトナム（現在のアーンドラ・プラデーシュ州）、ピピリ、バーレーシュワル（いずれもオリッサ州）などにも商館が設立されましたが、経営は常に不安定でした。

17世紀後半、デンマークは一時的に植民地を放棄しましたが、1670年に再進出。新しい東インド会社を設立し、トランケバルを拠点に貿易を再開しました。18世紀には、ゴンドル・パラ（シャンデルナゴルの南東）やマラバール海岸などに拠点を拡大しました。

貿易の黄金時代と衰退

18世紀後半、デンマーク領インドは一時的な繁栄を迎えました。その背景には、デンマークアジア会社による貿易独占の廃止、国際貿易の拡大、そしてイギリス東インド会社の拡大がありました。イギリスとフランスなどの戦争当事国間の貿易を、中立国であるデンマークが代行することで利益を上げました。また、イギリス東インド会社の役人が私貿易で得た利益を、デンマークの貿易ルートを通じて本国に送金する動きもありました。

しかし、ナポレオン戦争が勃発すると状況は一変します。デンマークは武装中立を維持しましたが、イギリスはコペンハーゲンを攻撃し、デンマーク艦隊を破壊。インドにおけるデンマークの貿易は衰退し、イギリスによってトランケバルやセランポールなどが占領されました。

19世紀に入ると、デンマークは徐々にインドの植民地をイギリスに売却。1839年にセランポール、1845年にはトランケバルなどの主要拠点を失い、1868年にはニコバル諸島もイギリスに売却。ここにデンマーク領インドの歴史は幕を閉じました。

デンマーク領インドの遺産

デンマーク領インドは、ヨーロッパの主要国に比べて小規模であり、その影響も限定的でした。しかし、トランケバルには、ダンスボー砦をはじめとするデンマーク時代の建築物が現存し、当時の面影を今に伝えています。また、宣教師ジーゲンバルグが設立した教会は、現在もタミル福音ルーテル教会として存続し、地域社会に貢献しています。

2001年以降、デンマークはボランティアや政府機関を動員し、トランケバルにあるデンマーク植民地時代の建物の修復に取り組んでいます。セランポールの聖オラフ教会も現存しており、当時の歴史を物語っています。

デンマーク領インドは、インド亜大陸におけるヨーロッパの植民地支配の一側面を示す存在として、歴史の中に刻まれています。

もう一度検索