トゥイストー

トゥイストー（またはトゥイスト、トゥイスコーとも称される）は、紀元1世紀末にローマの歴史家タキトゥスが著した『ゲルマーニア』の第2章に登場する、すべてのゲルマン民族の祖先と伝えられる神格です。ゲルマン民族が自らの起源について語り継いだ伝承の中で、トゥイストーは大地から誕生し、その息子であるマンヌス（人間を意味する言葉）と共に人類の祖と位置づけられています。

タキトゥスの記録によれば、古代のゲルマン民族は、トゥイストーを讃える「古代の歌」を持っていたといいます。これらの歌には、トゥイストーの息子マンヌスにインガエウォネース、ヘルミノーネース、イスタエウォネースという3人の息子がいたことが語られ、それぞれが地理的に異なる地域（海の近く、内陸部、その他の地域）に住むゲルマン民族の祖となったとされています。比較神話学の研究者、ブルース・リンカーンは、ジョルジュ・デュメジルの提唱した三機能仮説に基づき、トゥイストーとマンヌスに関するこの伝承を、インド・ヨーロッパ語族に共通する原創造神話の系譜に位置づけて考察しています。

名前の語源と多様な解釈

「トゥイストー」という名前の由来については、いくつかの説が提唱されています。

「トゥイスコー（Tuisco）」という表記を本来の形とする説では、この名前がゲルマン神話のティウ（Tiu）神に由来する形容詞「tivisco」に関連すると考えられています。ある語源研究では、ゲルマン祖語の再建形「tiwisko」を、同じくゲルマン祖語で「ティウの息子」を意味するとされる「Tiwaz」と関連づけ、トゥイストーを天空神と地母神の息子と解釈します。ただし、この説に対しては、「-isk-」が「裔出」を示すならば、「ティーウィスコー（Tivisco）」となるはずだという指摘もあります。タキトゥスの写本では「Tuisto」が多く見られる一方、この説は「Tuisco」を正しい形と見なします。

これに対し、より広く受け入れられている語源説は、トゥイストーの名前がゲルマン祖語で「2」を意味する語根「twi-」に由来するというものです。これは、現在のドイツ語の「Zwitter」（双生児、あるいは陰陽両性者）に相当する言葉と関連すると考えられており、トゥイストーが両性具有的な性質を持つ存在であった可能性を示唆するという研究者もいます。

この両性具有の解釈を発展させると、トゥイストーを北欧神話に登場する原初の巨人ユミルと同一視する仮説が生まれます。ユミルもまた、単独で巨人の血統を生み出した、両性具有的な存在として語られているためです。しかし、神話学者の中には、両者の意味論的な関連性に注目しつつも、役割における重要な違いを指摘する声もあります。例えば、ジョン・リンドーは、ユミルが一般に否定的な存在として描かれるのに対し、タキトゥスによればトゥイストーは古代の歌で「賛美される」存在であり、タキトゥス自身も彼について否定的な記述をしていない点を挙げています。

他にも、トゥイストーの名前は、「対立」「争い」「境界」を意味する他のゲルマン語派の単語（ドイツ語のzwist、スウェーデン語のtvista、オランダ語のtwistenなど）に関連づける説があります。これらの言葉もまた、「twi-」という語根から派生しています。

また、ローマ神話における建国神マールスの重要性や、マールスとその息子ロームルスがローマ民族の祖とされる点との比較に基づき、トゥイストーが北欧神話の戦争の神テュール（Tyr）の古い名前であった可能性を指摘する見解もあります。テュールはしばしばマールスと比較される神格です。

さらに、「*twi-」の語根から「2つの顔」や「2本の掌」といった意味を読み取り、トゥイストーが世界の対立する要素（例えば、太陽と月、昼と夜、熱さと寒さ、男性と女性など）を代表する存在であるという象徴的な解釈も存在します。

トゥイストーが大地から生まれたと伝えられている点は、『ゲルマーニア』に記されており、これはギリシャ神話のゼウス（地母神ガイアから生まれた）や、インド神話のディヤウス（名前がテュールと語源的に関連する天空神）との共通性として言及されることがあります。

他の神話体系との比較

より広範なインド・ヨーロッパ神話の文脈では、トゥイストーはインド神話やヴェーダ神話に登場する創造神トヴァシュトリと語源的に同一視されることがあります。

北欧神話のユミルとの関連性は、語源や機能の類似性から多角的に考察されてきました。研究者のアレクサンダー・ヤコブは、ヴェーダ神話におけるトヴァシュトリの系譜（娘サラニューとヴィヴァスヴァットを介して、人類の祖マヌと同源であるヤマの祖父）を比較に用いることで、トゥイストー（トヴァシュトリとの関連を仮定）は本来、ユミル（ヤマと同源とされる名）の祖父であった可能性が高いと主張しています。

トゥイストーは、タキトゥスの記録を通じて知られるゲルマン民族の祖神として、その起源、多様な名前の語源説、そして他のインド・ヨーロッパ神話における創造神や原巨人との比較研究を通じて、古代ゲルマンの宗教観や、より古いインド・ヨーロッパ語族の神話体系を理解する上で重要な意味を持つ存在と言えます。

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