トウィール

SF黎明期を飾る独創的な異星人「トウィール（TweelまたはTweerl）」は、作家スタンリイ・G・ワインボウムによって創造され、1934年に発表された短編『火星のオデッセイ』およびその約4か月後に刊行された続編『夢の谷』に登場します。ワインボウムはその後まもなく肺がんで若くして亡くなったため、彼が構想していたとされる火星シリーズの第3作は未完に終わりました。

トウィールは、当時のサイエンス・フィクションにおける異星人像としては非常に画期的な存在であり、後の多くのSF作家たち、例えばアイザック・アシモフやアーサー・C・クラークらに影響を与えたと評価されています。特にアシモフは、トウィールがSF界で初めて、編集者ジョン・W・キャンベルが提唱した「人間並みあるいはそれ以上の知性を持つが、人間とは全く異なる思考様式を持つ生命体」という条件を満たしたキャラクターであると指摘しています。

トウィールの正確な発音は、人間には困難であるとされています。

外観の特徴

トウィールの姿は、ぱっと見ると鳥類を思わせる特徴を持つものの、厳密には異なります。顔には一対の付属物があり、これは自由に動き、先端が緩やかに湾曲しているため、くちばしと鼻の中間のような独特な形状をしています。体はやや丸みを帯びており、そこから伸びる長い首の先に小さな頭部とこの付属物があります。手足の指はそれぞれ4本ずつあります。また、羽根のような付属物も持ち合わせていますが、これは火星の過酷な寒夜における保温機能を持つ一方、昼間は体内に引っ込んでしまうため通常は見えません。個体によって羽根の色は異なり、トウィール自身は鮮やかな橙色をしています。外見は多少人間と似通っている部分もありますが、体内構造は全く異なり、例えば脳は頭部ではなく胸部に位置するという大きな特徴があります。防御のため、収納式の鋭いかぎ爪も備えていますが、普段はむき出しにすることは少ないです。

種族「トート」

『夢の谷』作中で明らかになるように、トウィールはトート（Thoat）と呼ばれる知的種族の一員です。トート族は、地球の生物分類基準でいうと植物と動物の中間のような存在と推測されます。彼らは睡眠や食事、飲水を必要とせず、数時間ごとにくちばしを地面に突き刺すことで、まるで植物の根のように直接土から必要な栄養分を摂取します。生殖方法は独特の無性生殖で、二体の個体が短時間接触することで新たな生命が発芽するとされています。火星の薄い大気と低い重力のおかげで、トート族は非常に活発かつ敏捷に動き回ります。通常の移動は都市間を飛び跳ねるように行い、長い付属物を地面に突き立てて停止し、休息をとります。崖や谷も容易に飛び越えることができますが、物語の主人公ジャービスのペースに合わせてゆっくりと歩くことも可能です。彼らは基本的におとなしく友好的な性質を持つ一方、危機に直面した際には非常に手ごわい相手となります。

知性と思考様式

トート族は卓越した知能を持つものの、その思考プロセスは人間とは根本的に異なります。主人公ジャービスが地面に描いた太陽系の図を見て、火星が4番目、地球が3番目であると認識するなど、宇宙に関する知識を持つことを示唆する場面があります。しかし、その反応として太陽を表す円に飛びかかりくちばしを突き立てる行動をとるなど、彼らの思考が人間の常識からかけ離れていることを示しています。

トート族の言語は、人間にとって理解しがたい奇妙な音（ヒュー、チッ、リルなど）で構成されています。彼らは未知の素材で作られた独特の袋や容器を持ち、その表面に文字のようなものを記すことができます。この文字は円や渦のように見え、あまりに複雑で非人間的であるため、人間には翻訳も理解も不可能とされています。また、彼らの言語構造は非常に独特で、同じ概念を多様な表現で言い表す傾向があり、同じ目的のために同じ単語を繰り返し使うという人間の習慣を奇妙に感じるほどです。

興味深いことに、トウィールは人間の言語である英単語の一部を習得しました。例えば、「ブリート」は生命体、「ノーブリート」は無生物、「ロック」は珪素生命体を指し、「ワン・ワン・ツー」で未熟な知性を、「ツー・ツー・フォー」で高度な知性を表現するといった独自の単語体系を築きました。これらの限られた単語を用いて高度な概念を伝えられることから、その知性の高さが窺えます。

失われた古代文明

トート族は、人間よりもはるかに長い歴史を持つ高度な文明を築いていましたが、現在は滅亡寸前の状態にあります。かつて数百万人が暮らしたとされる巨大な廃墟都市が、彼らの過去の栄光を物語っています。これらの建物は、地上階が狭く上層階が広いという奇妙な構造をしていたと描写されています。文明を支えた技術は、火星の限られた資源がはるか昔に枯渇したことで失われてしまったと考えられています。現在の生存者は数百人程度とされるのみです。

文明の終焉には、ワインボウムの別の作品『狂った月』に登場する邪悪な生物「スリンカー」のような存在が関与していた可能性が示唆されています（図書館で本を読んだり食べたりする描写がある）。

彼らは原子力は開発しませんでしたが、別の動力源を持っていた痕跡があり、それも現在は失われています。トート族の活動は少なくとも1万年以上前に遡ると推測されており、古代エジプトを訪れ、人類に文字を教え、神として崇拝されたという伝承（エジプト神話のトート神との関連）が残されています。『火星のオデッセイ』では、廃墟の暗闇の中で主人公ジャービスが目撃した三つ目が、ワインボウムの別作品『寄生惑星』に登場する生物「トリオ・ノクティビアン」の目と同じであることが示唆されています。

彼らはまた、燃える石炭のようなエネルギー源となる装置や、透明なガラス質でできた化学・蒸気式の毒弾を発射する小型銃といった独特の道具を使用していたと描写されています。

遺された謎と影響

ワインボウムの早世により、火星シリーズの第3作は未完となり、『夢の谷』で提示された多くの謎、例えば植物のように土から栄養を得るトート族がなぜ水の運河を必要とするのか、といった疑問は未解決のまま残されました。ただし、『夢の谷』中の描写から、これらの運河はトート族自身のためではなく、水を必要とする他の高等生物のために維持されていた可能性が示唆されています。

トウィールは、その独創的なキャラクター造形により、その後のSF作品にも影響を与え続け、ラリー・ニーヴンの作品『虹の火星』にもゲスト的に登場するなど、SF史における象徴的な異星人として今日まで記憶されています。

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