トニーズ

日本の音楽シーンにおいて、1960年代後半に特異な軌跡を辿ったグループに「トニーズ」（Tonys）が挙げられます。彼らのキャリアは、芸能界の複数の分野にまたがりながら展開しました。

グループの誕生と変遷

トニーズの源流は、1964年に神奈川県の松竹大船撮影所で誕生したバンド「ザ・ダイアモンズ」に遡ります。このグループは、俳優である三上真一郎氏を中心に、荒木健太氏（後に新城健史、そしてトニー荒木として知られる）、栗原喜明氏、秋元栄次郎氏、杉本哲章氏といった新人俳優たちによって結成されました。一時期には、田村正和氏や竹脇無我氏といった著名な俳優も名を連ねたことがあると言われています。後に三上氏がグループを離れ、残りの4人のメンバーで「トニーズ」と改名し、新たなスタートを切ることになります。

デビューと国民的歌手との共演

1966年、トニーズはビクターレコードから記念すべきデビューを果たします。その楽曲は、当時絶大な人気を誇っていた歌手・女優の吉永小百合氏との共演曲『勇気あるもの』でした。この曲は大きな反響を呼び、正確な集計システムが確立される前の時期ではありましたが、ミリオンセラーを記録したという資料も存在します。また、この楽曲はビクターレコード・ヒット賞をはじめ、数々の賞を受賞するなど、グループを一躍スターダムに押し上げるきっかけとなりました。シングルのB面に収録された『海に泣いてる』は、トニーズ単独での歌唱曲でした。

メディアでの活躍と人気の高まり

松竹映画を退社した後、ホリプロと契約したトニーズは、テレビという新たなメディアで活動の場を広げます。日本テレビ系列で放送された『吉永小百合ショー』にはレギュラー出演し、多くの視聴者にその存在を知らしめました。1966年のNHK紅白歌合戦には、吉永小百合氏とともに『勇気あるもの』を歌って出場し、お茶の間にその歌声を届けました。また、当時の人気番組であった『ロッテ歌のアルバム』、『夜のヒットスタジオ』、『ヤング720』といった音楽番組にも多数出演し、彼らの人気を不動のものとしていきました。

音楽性の葛藤とその後の道のり

トニーズの演奏スタイルは、当時の流行であったグループ・サウンズ（GS）の色合いが濃かったにもかかわらず、デビュー曲『勇気あるもの』がフォークソングのようなイメージを持っていたため、音楽的な方向性について曖昧さが残ったことは否めません。初の単独名義シングルとして発表した『愛のペンダント』や、再び吉永小百合氏と組んだ『愛の世界』は一定のヒットを記録しましたが、その後は残念ながらヒット曲に恵まれない時期が続きます。

この状況を打破するため、グループは度重なるメンバー変更や改名を行います。1969年には芝宏二氏を加え、「ザ・リバティーズ」として『渚に消えた恋』を発表（コロムビアレコードより）。1970年には「ファイブ・ジャックス」と名を改め、『めぐり逢うのが遅すぎた』をリリース（日本グラモフォンより）。さらに1971年には「新城健とブルー・シャンデリー」として『さいはての女』を歌いますが（ワーナー・パイオニアより）、いずれの楽曲も大きなヒットには繋がらず、日本国内でのグループとしての活動は終焉を迎えることになります。

新たな活動の場を求めて

日本での活動を終えた後、グループは旧名「トニーズ」に戻し、活動の場をアメリカ合衆国のハワイ州へと移します。ハワイでは、1975年に『夜の虹』と『何故』をリリースするなど、音楽活動を継続しました。また、ハワイでの活動中には、後に世界的な歌手となるサンディー氏が日本でデビューする前に、彼らと組んで活動した時期もありました。サンディー氏のハワイでのデビュー曲『ペルシャ猫は恋泥棒』は、中心メンバーであるトニー荒木氏が作曲を手掛けたものです。

グループ解散後も、トニー荒木氏（新城健史氏）はハワイを拠点に多岐にわたる活動を続けました。2013年には自身の名義でCD『赤いレイ』、『ラナイへ出てコーヒーのもうよ』、『小さな幸せ』をリリースし、アラモアナの白木屋などで販売、ラジオ番組などにも多数出演しました。さらに、彼は文筆活動にも力を入れ、2019年から2020年にかけては、真珠湾攻撃当時のハワイにおける日系人を含む若者たちの姿を描いた小説「ホノルル１９４１」を、現地のハワイ報知新聞に159回にわたって連載しました。ちなみに、トニー荒木氏の実の娘は、タレントとして活躍する荒木師匠こと荒木久美子氏です。

主なディスコグラフィー

トニーズおよび改名後のグループによる主なシングルおよびアルバムは以下の通りです。

シングル

SV-483 勇気あるもの（吉永小百合とトニーズ） / B面海に泣いてる（トニーズ）
作曲：吉田正、作詞：佐伯孝夫（ビクター・レコード）
SV-517 愛のペンダント / B面淋しいなんて
作曲：秋元秀泰（栄次郎）、新城健史、作詞：秋元秀泰（栄次郎）、阿久悠
SV-542 夕焼けの砂浜 / B面海はふるさと
作曲：杉本哲章、新城健史、作詞：杉本哲章、寺本圭一
SV-562 愛の世界（吉永小百合とトニーズ） / B面恋人たち（吉永小百合とトニーズ）
作曲：吉田正、作詞：佐伯孝夫
SV-578 アカプルコの娘 / B面そよ風とトニーズ
作曲：鈴木邦彦、キダ・タロー、作詞：なかにし礼、キダ・タロー
がんばれ!マリンキッド（アニメ主題歌） / B面ネプティーナのワルツ（西六郷少年少女合唱団）
作曲：塚原晢夫、作詞：白鳥朝詠
渚に消えた恋（ザ・リバティーズ） / B面愛のペンダント（ザ・リバティーズ）
作曲：水野彰、作詞：秋元秀泰（栄次郎）（コロムビア・レコード）
めぐり逢うのが遅すぎた（ファイブ・ジャックス） / B面恋人の楽園（ファイブ・ジャックス）
作曲：村井邦彦、作詞：山上路夫（日本グラモフォン）
さいはての女（新城健とブルー・シャンデリー） / B面別れのバラード（新城健とブルー・シャンデリー）
作曲：牧野昭一、作詞：志摩美之（ワーナー・パイオニア・レコード）

アルバム

愛のペンダント
（愛のペンダント、海に泣いてる、夕焼けの砂浜、海はふるさとなどを収録）
赤いレイ（Kenta名義）
（赤いレイ、ラナイへ出てコーヒーのもうよ、小さな幸せなどを収録）

このように、トニーズおよびその派生グループは、短い活動期間ながらも国民的歌手との共演やメディアへの多数出演で一時代を築き、その後はハワイへと活動の場を移すなど、日本のポピュラー音楽史において独自の足跡を残しました。特に中心メンバーであるトニー荒木氏は、音楽のみならず文筆の分野でもその才能を発揮し、晩年まで精力的な活動を続けました。

もう一度検索