トビー門口

トビー門口

1941年10月9日に台湾で生まれたトビー門口（本名：木村隆司）は、日本の映像界で異彩を放った人物です。台湾名「門東飛」に由来する芸名を名乗り、俳優として活動する傍ら、日本の映画やテレビにおける銃器表現、すなわちガンエフェクトの分野で先駆的な役割を果たしました。

キャリアの初期は、カントリーバンド「ジミー時田とマウンテンプレイボーイズ」の一員として音楽活動を行っていましたが、後に俳優へと転身します。主に悪役として数々の作品に出演し、その個性的な存在感を示しました。俳優として広くその顔を知られるようになったのは、1974年のナショナルハイトップ乾電池のコマーシャルでしょう。このCMでは、人造人間に扮し、胴体から電池を抜いて直立したまま後ろへ倒れるというユニークな演技を披露。この演技が高く評価され、「第14回ACC CMフェスティバル」のTVフィルム部門ACC賞を受賞し、一躍注目を集めました。

俳優業と並行して、トビー門口がその才能を特に発揮したのが、映像作品における銃器の特殊効果を専門とするテクニカルアドバイザーとしての活動でした。この分野における日本の第一人者として、彼はリアリティのある銃撃シーンを実現するための様々な技術を開発・改良しました。アメリカでジェフ・クーパーにコンバットシューティングを師事した経験を持つ彼は、その知識を日本の映像制作に活かしました。実践的な射撃を想定したトレーニング機関「I・P・S・A（インターナショナルプラクティカルシューティングアカデミー）」を設立し、後進の指導にもあたりました。

彼の貢献は、単に銃器の扱い方を指導するに留まりませんでした。リアルな弾着表現や、撮影用に使用するプロップガンの技術革新に情熱を注ぎました。特に、市販のモデルガンを撮影に適した状態に改造する技術に長けており、『丑三つの村』ではMGC製レミントンM31ショットガンの銃身を複数繋ぎ合わせて9連発仕様にするなど、大胆かつ高度な技術を用いていました。また、『ゴキブリ刑事』では同じくMGC製のステン短機関銃をプロップ化するなど、その技術力は多岐にわたりました。彼は小林太三氏らと共に、当時の日本のガンエフェクト技術を飛躍的に向上させる原動力となったのです。

トビー門口は、俳優としての活動に加え、実践的な射撃技術や銃器に関する知識、安全な扱い方の指導を中心に後年の活動を展開しました。『月刊Gun』などの専門誌にステージガンに関する記事を寄稿するなど、文筆活動も行いました。彼の築き上げたリアルな特殊効果の技術は、以降の日本のガンエフェクトプロフェッショナルに大きな影響を与え、この分野の礎となりました。

しかし、1984年にプラスチック製モデルガンの不正改造が銃刀法違反に問われる事件が発生します。この事件により、彼は懲役3年執行猶予4年の判決を受け、映像業界から事実上退くこととなりました。その後、表立った活動はほとんどありませんでしたが、最晩年、原田眞人監督の強い希望により、長渕剛のミュージックビデオ『HUNGRY』に出演。これが彼の遺作となりました。

1999年、病により急逝。享年58歳でした。トビー門口は、俳優として強い印象を残す一方、日本のガンエフェクト黎明期を支え、その技術を大きく進歩させた功労者として、映像史にその名を刻んでいます。

もう一度検索