HUNGRY

長渕剛8枚目のアルバム『HUNGRY』：ハングリー精神が凝縮されたロック魂

1985年 8月22日、長渕剛の8枚目のオリジナルアルバム『HUNGRY』が東芝EMIのエキスプレスレーベルよりリリースされた。前作『HOLD YOUR LAST CHANCE』から約1年ぶりとなる本作は、長渕剛自身の作詞・作曲・プロデュースによる力作であり、その音楽性と背景には、アーティストとしての揺るぎない信念と、並々ならぬ努力が見て取れる。

制作背景：過酷なツアーと並行した創作活動

前作リリース後、長渕剛は全国35都市、全41公演に及ぶ大規模なライブツアー「LIVE'84 - '85 HOLD YOUR LAST CHANCE」を敢行した。過酷なツアーをこなしながらも、彼は精力的に楽曲制作に取り組んだ。その証として、本作リリースに先駆け、シングル「久しぶりに俺は泣いたんだ」（1985年 3月30日）、「勇次」（1985年 7月22日）が発表されている。さらに、音楽活動以外にも、TBSラジオ番組のパーソナリティやテレビドラマへの出演など、多方面で活躍していた。まさに、多忙な日々の中での創作活動と言えるだろう。

音楽性：洗練されたロックサウンドとブルースの要素

『HUNGRY』は、前作に続くロックサウンドをさらに洗練させた作品だと言える。音楽雑誌『別冊カドカワ総力特集長渕剛』では、ブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンド、ニール・ヤングとクレイジー・ホースの関係性になぞらえ、長渕剛とThe Band of Spiritsの連携が称賛されている。バックバンドとの一体感が生み出す力強い演奏は、聴く者の心を揺さぶる。

また、『文藝別冊長渕剛民衆の怒りと祈りの歌』では、本作のテーマが「10代の頃、誰もが持っていたハングリーさを取り戻そうとすること」と解説されている。このテーマは、アルバム全体を貫く力強いメッセージとして、楽曲に深く刻み込まれている。ブルース・ロック的な雰囲気も随所に感じられ、長渕剛の音楽的な幅広さを示す作品となっている。ミキサーには、前作に引き続きグレッグ・ラダニーが参加。さらに、ギタリストとしてFENCE OF DEFENSEの北島健二が参加し、サウンドに厚みを加えている。

リリースとプロモーション：多様なフォーマットと積極的なメディア出演

『HUNGRY』は、レコード、カセットテープ、CDの3形態でリリースされた。後に、CDは24ビット・デジタルリマスター、紙ジャケット仕様で再リリースされている。プロモーション活動としては、「久しぶりに俺は泣いたんだ」の初となるプロモーションビデオ制作や、フジテレビ系『夜のヒットスタジオDELUXE』、日本テレビ系『歌のトップテン』への出演など、積極的なメディア展開が行われた。さらに、アルバム収録曲を網羅したビデオ作品もリリースされ、その音楽的魅力を多角的にアピールした。

アートワーク：新たなイメージ

アルバムジャケットでは、それまでの長髪スタイルから一変、短髪にヘアスタイルを変え、メイクアップを施した長渕剛の姿が写し出されている。これは、音楽性だけでなく、アーティストとしての新たな一面を示唆していると言えるだろう。

ツアー：過酷なスケジュールと健康問題

アルバム発売に伴い、「LIVE'85 - '86 HUNGRY」と題したコンサートツアーが開催された。52都市、全62公演という過酷なスケジュールの中、長渕剛は毎日39度を超える高熱を点滴で抑えながらステージに立ち続けた。その結果、ツアー終盤には過労のため倒れ、鬱状態に陥り、残りの公演は全てキャンセルせざるを得ない事態となった。このツアーは、長渕剛の並々ならぬ情熱と、その代償の大きさを示す出来事として記憶されている。

批評：高い評価と時代を超越した普遍性

音楽情報サイト『CDジャーナル』では、本作について「男の生きざまがぷんぷんと臭ってくるようだ」と、力強い音楽性とメッセージ性を高く評価。「スティール・ギターを泣かせてるところなどブルースのフィーリングを感じさせる」と、ブルースの要素を指摘している。また、音楽ライターの藤井徹貫は『別冊カドカワ総力特集長渕剛』にて、収録曲「明日へ向かって」「勇次」「STANCE」について、「25年以上前の曲とは思えないほど、何の違和感もない。何の矛盾もない。それは主義主張を貫いている証明だ」と、時代を超越した普遍性を評価している。

チャート成績：商業的な成功

オリコンチャートでは最高4位を記録し、約9万枚を売り上げた。2006年の再発版でもチャート入りを果たし、ロングセラーとしての地位を確立している。

収録曲：バラエティに富んだ楽曲群

『HUNGRY』には、シングル曲「久しぶりに俺は泣いたんだ」「勇次」をはじめ、バラエティに富んだ楽曲が収録されている。それぞれの楽曲は、長渕剛の音楽的才能とメッセージ性を余すことなく表現している。また、アルバムには、多くのミュージシャンが参加しており、その演奏力も本作の魅力を高めている要因の一つと言える。

ミュージックビデオ：映画のような世界観

アルバムと同名のミュージックビデオ作品『HUNGRY』は、単なるライブ映像ではなく、原田眞人を監督に迎え、荒廃した近未来を舞台に、銃を手に戦う男たちを描いた本格的なストーリー仕立ての作品となっている。映画『マッドマックス2』を思わせるような独特の世界観が、音楽と見事に融合した作品となっている。

まとめ：伝説のアルバム

『HUNGRY』は、過酷なツアーと並行して制作された、長渕剛の魂が凝縮された作品だと言える。その音楽性、背景、そしてその後のツアーにおける出来事を通して、アーティストとしての彼の揺るぎない信念と、並々ならぬ努力が伝わってくる、まさに伝説的作品と言えるだろう。

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