ステン短機関銃

ステンガン：第二次世界大戦を象徴する短機関銃

第二次世界大戦下のイギリスにおいて、急増する小火器需要に応えるべく開発されたのがステンガン（Sten gun、またはSTEN）です。本稿では、この簡素ながらも連合国軍の勝利に貢献した短機関銃について、その開発から運用、そしてその後継機に至るまで詳細に解説します。

開発の背景：ダンケルクの敗北とバトル・オブ・ブリテン

1940年、ドイツ軍によるフランス侵攻を受け、イギリスとフランスの連合軍はダンケルクへと撤退を余儀なくされました。この大撤退において、多くの武器・弾薬が失われ、イギリスにたどり着いた兵士たちの多くは、装備不足に陥っていました。一方、同年7月にはドイツ空軍によるイギリス本土空襲（バトル・オブ・ブリテン）が始まり、イギリス国内の軍需工場にも大きな被害が生じました。そのため、イギリス軍は迅速かつ大量に生産できる新しい短機関銃の開発を喫緊の課題としていました。

当時、イギリス軍はアメリカ製のトンプソン・サブマシンガンを高く評価していましたが、大西洋上の通商破壊により供給が不安定でした。また、国内で開発されたランチェスター短機関銃も、生産性やコストの問題から大量配備には至りませんでした。

ステンガンの誕生：エンフィールド王立造兵廠の挑戦

1941年、イギリス軍はロンドンのエンフィールド王立造兵廠に、簡素な設計で生産性の高い短機関銃の開発を依頼しました。同造兵廠のシェパードとターピンという2人の技師は、ドイツのMP28やMP40を参考に、徹底的な合理化設計を取り入れた新型短機関銃の開発に着手しました。

ステンガンの設計においては、生産性の向上が最優先されました。そのため、従来の複雑な製造工程を大幅に簡素化し、プレス加工による鋼板部品を多用するなど、画期的な生産手法が採用されました。また、実包には、イギリス軍制式拳銃弾である38エンフィールド弾が自動火器に向いていなかったため、ドイツ軍の9mmパラベラム弾が採用されました。

2人の技師の頭文字とエンフィールド造兵廠の頭文字を組み合わせた「STEN」という名称で命名され、1941年6月に試作銃が完成しました。

ステンガンのバリエーションと特徴

ステンガンは、Mk.IからMk.VIまでの様々なモデルが生産されました。初期型であるMk.Iは、従来の短機関銃のデザインを踏襲していましたが、後のモデルでは、木製部品の削減や、シンプルな構造への変更など、さらなる省力化が図られました。特にMk.IIは、約200万挺もの大量生産が行われ、ステンガンの代名詞ともいえるモデルとなりました。

Mk.IIは、その簡素な構造から「水道管で作った銃」と揶揄されるほどでしたが、実用性においても高い評価を得ました。比較的良好な射撃精度と、扱いやすさから、前線兵士からも一定の評価を得ていました。ただし、弾倉の給弾不良や耐久性の低さといった欠点も抱えていました。

Mk.IIIは、玩具メーカーが開発したさらに簡素化されたモデルでしたが、動作不良が多かったため、短期間で生産が中止されました。Mk.Vは、木製部品を復活させ、精度向上と銃剣装着を可能にするなど、改良が加えられた最終型モデルとなりました。Mk.II(S)やMk.VIは、サプレッサー（消音器）を装着した特殊型です。

各国での生産と運用

ステンガンは、イギリスだけでなく、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどでも生産されました。特に、カナダ製のステンガンは、イギリス製よりも品質が高いと評価されていました。オーストラリアでは、独自の改良を加えたオーステンが生産されましたが、自国製のオーウェン・マシンカービンの方が人気がありました。

レジスタンスとドイツ軍

ステンガンは、ヨーロッパ各国のレジスタンスにも広く供給され、活躍しました。その小型軽量さ、簡素な構造、そして入手容易な9mmパラベラム弾は、ゲリラ戦には最適でした。ドイツ軍も鹵獲したステンガンを運用し、一部はコピー生産も行われました。

戦後とその後継機

第二次世界大戦後も、ステンガンはイギリス軍でしばらく使用されましたが、1950年代にはスターリング・サブマシンガンに更新されました。スターリングは、ステンガンの生産設備を流用して開発されたモデルです。

まとめ：時代の要請に応えた簡素な傑作

ステンガンは、その簡素な設計と大量生産体制によって、第二次世界大戦下の連合国軍に大きな貢献をしました。低コストで大量生産できるという利点から、レジスタンス勢力にも広く使用され、その存在感は、戦後まで長く続きました。戦争の激しさ、そして時代の要請を象徴する兵器として、ステンガンは歴史に刻まれています。

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