トマス・デ・メルカード

トマス・デ・メルカード（Tomás de Mercado, 1525年頃 - 1575年頃）は、16世紀のスペインを代表する神学者、哲学者であり、ドミニコ会に所属していました。彼はサラマンカ学派の経済思想家（Arbitrista）の一人として知られ、その思想は後の経済学の発展に重要な影響を与えました。

生涯

メルカードの出生地については、ヌエバ・エスパーニャ（現在のメキシコ）とする説と、スペインのセビリアとする説があります。若くしてドミニコ会に入会し、メキシコの修道院で教鞭を執りました。その後、スペインに渡り、サラマンカ大学で神学と哲学を修め、講師として教壇に立ちました。晩年はセビリアの両替商に勤務した後、故郷のメキシコへ帰る船上で亡くなったとされています。彼の没年については1575年説と1585年説がありますが、正確な年は不明です。

経済思想

メルカードの経済思想は、サラマンカ学派の伝統を受け継ぎつつ、独自の発展を遂げました。彼は価値と価格に関する理論において、公正価格論を主張しました。これは、商品の価格は市場における需要と供給だけでなく、その商品の生産にかかる費用や労働価値を考慮すべきという考え方です。また、貨幣論においては、貨幣数量説を支持しました。これは、貨幣の流通量が増加すると物価が上昇するという理論です。

メルカードは、「王国の繁栄」の基礎を金や銀などの貴金属の保有に求めました。しかし、彼は単に貨幣を富とみなしていたわけではありません。彼は、貨幣を保有することが事実上あらゆる富を保有することにつながるという認識を持っていました。そして、貨幣の国外流出を防ぐためには、いかなる禁止令よりも貨幣の価格を引き上げることが効果的であると主張しました。これらの考え方は、後の重商主義の思想と共通する点が多く、メルカードを重商主義者（重金主義者）の先駆者と評価する研究者もいます。

著作

メルカードの代表的な著作として、『商人の交易および契約』（Tratos y contratos de mercaderes y tratantes）が挙げられます。この著書は、当時の商業活動や契約に関する詳細な分析を提供し、経済思想史において重要な文献とされています。この著書で彼は、公正な価格設定や公正な商取引の重要性を強調しました。

結論

トマス・デ・メルカードは、神学者でありながら、経済思想においても傑出した業績を残しました。彼の思想は、サラマンカ学派の伝統を継承しつつ、重商主義の萌芽を示すものとして、後の経済学に大きな影響を与えました。メルカードの研究は、16世紀の経済思想を理解する上で欠かせないものとなっています。

参考文献

* 飯塚一郎 『貨幣学説前史の研究』 未来社、1969年

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