トマソ・アントニオ・ヴィターリ

トマソ・アントニオ・ヴィターリ（Tomaso Antonio Vitali）は、1663年3月7日、おそらくボローニャに生まれ、1745年5月9日にモデナでその生涯を終えたイタリアのヴァイオリニストであり作曲家です。彼の父、ジョヴァンニ・バティスタ・ヴィターリもまた高名な音楽家として知られており、トマソは恵まれた音楽環境で育ちました。

彼のキャリアは、父が1674年にモデナのエステ家宮廷副楽長に就任した際に大きく動きました。トマソも父に随行し、翌1675年には早くも宮廷楽団の一員に迎え入れられました。音楽家としての地歩を固める傍ら、彼は作曲法をアントニオ・マリア・パッキオーニに師事し、その技量を磨きました。長年にわたる宮廷での献身的な活動と才能が認められ、1707年には遂に宮廷楽長へと昇進します。以後、彼は1745年に死去するまで、モデナを活動拠点として留まり、その地の音楽文化の発展に貢献しました。

教育者としても後進の育成に尽力し、エヴァリスト・ダッラーバコ、ジャン＝バティスト・スナイエ、そしてルカ・アントニオ・プレディエリといった、後に名を成す音楽家たちを弟子として指導しました。

ヴィターリの作曲作品は、今日知られている限りすべて器楽作品で占められています。彼の音楽スタイルは、父ジョヴァンニ・バティスタ・ヴィターリや同時代のイタリアを代表するヴァイオリニスト・作曲家であるアルカンジェロ・コレッリの影響を強く受けていることが指摘されています。特に、ソロ作品やトリオソナタといったジャンルにおいて、こうした先達たちの様式が反映されています。

主要な作品としては、1693年にモデナで出版された「2つのヴァイオリン、チェロ、通奏低音オルガンのためのソナタ 作品番号1」や、1701年に同じくモデナで出版された「ヴァイオリンとチェロとチェンバロのためのソナタ 作品番号4」が挙げられます。これらの作品は、当時のイタリアにおける器楽ソナタの発展を示す重要な例であり、彼の作曲家としての技量を示すものです。

トマソ・アントニオ・ヴィターリは、父の功績の陰に隠れがちではありますが、エステ家宮廷という重要な音楽の中心地で長く要職を務め、多くの作品を残し、優れた弟子を育てた、イタリア盛期バロックにおけるヴァイオリン音楽の発展に寄与した一人と言えるでしょう。

もう一度検索