トライアンフ・スタッグ

トライアンフ・スタッグ：英国が生んだ個性派スポーツカー

トライアンフ・スタッグは、1970年から1978年にかけてトライアンフ・モーター・カンパニーによって製造された2ドアコンバーチブル/クーペです。イタリアの著名なカーデザイナー、ジョヴァンニ・ミケロッティの手によるスタイリングは、当時としては斬新で洗練されたものであり、メルセデス・ベンツSLクラスといった高級スポーツカーを意識したデザインとなっています。4シーターの快適な室内空間と、当時としては先進的な堅牢なボディ構造を持ち、米国のロールオーバー基準にも適合していました。特徴的な門型ロールバーと着脱式ハードトップも、スタッグのアイデンティティを形作っています。

デザインと開発

スタッグのデザインは、1963～64年にトライアンフ2000の前量産型をベースにしたスタイリング実験から始まりました。ミケロッティのデザイン案は、トライアンフの技術部長、ハリー・ウェブスターによって英国に持ち帰られ、高い評価を得て正式なモデルとして採用されることになります。しかし、そのスタイリングは前身モデルである2000とは大きく異なり、独自のデザイン性を確立しています。

当初は、ビュイック製のアルミ製V8エンジンの搭載が検討されましたが、実現せず、最終的にはトライアンフ独自の2.5L OHC V8エンジンが搭載されることとなりました。このエンジンは、後に排気量が3.0Lに拡大されました。トライアンフは、このエンジンを用いてV8市場への参入を目指していました。しかし、このエンジンは様々な問題を抱えており、それがスタッグの生産台数を制限する一因となりました。

エンジンの問題と改善

スタッグのV8エンジンは、いくつかの重大な欠陥を抱えていました。タイミングチェーンの耐久性の低さ、メインベアリングのサイズ、アルミ製シリンダーヘッドの品質、ウォーターポンプの強度不足などが、頻繁な故障の原因となっていました。これらの問題は、当時の英国自動車産業全体の品質管理の低さや、エンジンの設計上の欠陥に起因するものでした。

多くのオーナーは、ローバーV8やフォードエセックスV6など、より信頼性の高いエンジンへの換装を余儀なくされました。しかし、近年ではこれらの問題点に対する改善策が蓄積されており、適切なメンテナンスと部品交換を行うことで、エンジンの信頼性を向上させることが可能となっています。具体的には、大型ラジエーターの採用、冷却液経路の清掃、現代の高性能エンジンオイルの使用、電子点火装置への換装などにより、エンジンの耐久性が飛躍的に向上します。

生産とモデルバリエーション

エンジンの問題やその他の要因により、スタッグの生産台数は1970年から1977年までの間にわずか25,877台にとどまりました。このうち、米国へ輸出されたのは2,871台のみです。生産期間中には、いくつかのマイナーチェンジが施され、Mk I初期型、Mk I、Mk II、Mk II後期型といったモデルバリエーションが存在します。Mk IIモデルでは、ボディサイドに2本のラインが追加されたのが特徴です。

トランスミッションは、ボルグワーナー製の3速オートマチックと、トライアンフ伝統のマニュアルトランスミッションが選択できました。オプションとして、オーバードライブも用意されていました。その他、パワーウィンドウ、パワーステアリング、パワーアシスト付きブレーキは標準装備され、エアコンやワイヤーホイールといったオプションも用意されていました。

クラシックカーとしての価値

スタッグは、その独特のスタイリングと希少性から、現在ではクラシックカーとして高い人気を誇っています。多くのオーナーたちが集まるクラブや専門の部品供給業者も存在し、愛好家たちの努力によって、エンジンの問題なども解決されつつあります。現在でも世界中で愛好家たちに大切に維持され、走っている姿を見ることができます。英国自動車史における異色の存在であるスタッグは、今後もクラシックカーファンを魅了し続けることでしょう。

参考文献

Poole, C. (2004). Genteel Tourer: The Story of the 1970-77 Triumph Stag. Collectible Automobile, October 2004, 52-61.
Taylor, James (1999). Original Triumph Stag: The Restorers Guide. p.5-15.
Taylor, James (1992). Triumph Stag 1970-1977: Choice - Purchase - Performance - #4; Essential Advice & Data for Buyers & Enthusiasts. p. 6-12.
Triumph Service Division, Coventry England. (1969). Triumph British Leyland Preliminary Service Information - STAG, Part Number 545160
* Standard - Triumph Sales Limited (1969). British Leyland Triumph, Triumph Stag Graphic Catalogue, Graphic Publication no. 519579

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