トラッド・ジャズ

トラッド・ジャズとは

トラッド・ジャズ（Trad jazz）は、「伝統的なジャズ (traditional jazz)」の略称で、1950年代から1960年代にかけてイギリスで隆盛を極めたジャズの一形態です。クリス・バーバー、アッカー・ビルク、ケニー・ボールといったミュージシャンたちがその代表的な担い手として知られています。

リバイバルの始まり

トラッド・ジャズは、ニューオーリンズのディキシーランド・ジャズのリバイバルを基盤としています。ディキシーランド・ジャズのリバイバルは、1930年代後半にアメリカ西海岸で、スウィング・ジャズに近いシカゴ・スタイルへの反発として始まりました。ルー・ウォーターズとヤーバ・ブエナ・ジャズ・バンド、そしてトロンボーン奏者のターク・マーフィーらが、キング・オリヴァー、ジェリー・ロール・モートン、ルイ・アームストロング、W・C・ハンディといった先駆者たちのレパートリーを演奏しました。これらのバンドは、リズム・セクションにバンジョーとチューバを取り入れていたのが特徴です。

ニューオーリンズでは、1942年のバンク・ジョンソンの再発見や、ジェリー・ロール・モートンによる晩年のレコーディングが、伝統的なリバイバルのきっかけとなりました。1960年代には、フレンチ・クオーターにプリザベーション・ホールが設立され、その流れはさらに加速しました。

音楽的特徴

トラッド・ジャズは、トランペット、トロンボーン、クラリネットといった管楽器に加え、バンジョー、ダブルベース、ドラムといった楽器を組み合わせた編成が特徴的です。また、ポップ・ソングやナーサリー・ライムのジャズ・バージョンなど、一般大衆にも親しみやすいレパートリーを演奏することが多く、その音楽は多くの人々に愛されました。

初期のキング・オリヴァーの作品は、このスタイルのホット・ジャズを代表するものですが、個々の演奏者がソリストとして前面に出るにつれて、新しい音楽の形が生まれてきました。キング・オリヴァーのクレオール・ジャズ・バンドでアンサンブル奏者の一人を務めたルイ・アームストロングは、ソリストとして際立った存在であり、1920年代後半から1930年代初頭にかけて、新しいスタイルのジャズへの需要を喚起しました。シドニー・ベシェ、ビックス・バイダーベック、ウィンギー・マノン、マグシー・スパニアも、トラッド・ジャズの世界で大きな影響力を持つスタイリストとして知られています。グレン・ミラー、ジーン・クルーパ、ベニー・グッドマンなど、ビッグバンド時代を代表するアーティストの中にも、トラッド・ジャズから影響を受けた人々がいました。

イギリスでの展開

1940年代のイギリスでは、ブギウギ、「ストライド」ピアノ、ジャンプ・[[ブルース]]が人気を博していました。そのような状況下で、ジョージ・ウェッブのディキシーランダーズが第二次世界大戦中にトラッド・リバイバルを開拓し、ケン・コリアーのクレーン・リヴァー・バンドがニューオーリンズの純粋主義との強いつながりを維持しました。ウェッブと共に演奏したハンフリー・リトルトンは、1948年にニューオーリンズ/ルイ・アームストロングの伝統に基づいた独自のバンドを結成し、アームストロングの影響を受けつつも、徐々に主流のアプローチを採用していきました。1958年までに彼のバンドには3人のサックスが含まれていました。

1950年代から1960年代にかけては、「スリー・ビー」と称されたクリス・バーバー、アッカー・ビルク、ケニー・ボールが特に大きな成功を収め、いずれもヒット曲を生み出しました。テリー・ライトフット、ジョージ・チザム、モンティ・サンシャイン、ミック・マリガン、ジョージ・メリー、マイク・コットンといったバンドも人気を博し、定期的にライブ演奏や放送を行い、イギリスの音楽チャートを賑わせました。ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンド、テンペランス・セヴン、ニュー・ボードビル・バンドなどは、よりコミカルな要素を取り入れたトラッド・ジャズを演奏しました。ローリング・ストーンズ、ビートルズ、スモール・フェイセス、キンクスのレコードにも、ディキシーランドのスタイルを取り入れた楽曲が見られます。ザ・フーに至っては、初期の頃に実際にトラッド・ジャズを演奏していたこともあります。

1950年代には、多くのアマチュア・バンドが地元の支持を集め、「ジャズ・ジャンボリー」などのイベントに出演しました。マージーシッピ・ジャズ・バンド、セカンド・シティ・ジャズバンド（バーミンガム）、スティール・シティ・ストンパーズ（シェフィールド）、スライド・ヴァレー・ストンパーズ（グラスゴー）、セインツ・ジャズバンド（マンチェスター）などがその代表例です。

クリス・バーバーはロニー・ドネガンとアレクシス・コーナーに演奏の機会を提供し、1960年代のビート・ブームを支えたブリティッシュ・リズム・アンド・ブルースやスキッフルへの熱狂を生み出しました。

現代への影響

1970年代にはトラッド・ジャズへの関心が再び高まり、ニュー・ブラック・イーグル・ジャズ・バンドなどが活躍しました。1980年代後半には、ウィントン・マルサリスをはじめとする多くのミュージシャンが、オリジナルのトラッド・ジャズの楽曲だけでなく、このスタイルによる新しい作品を作曲、演奏、録音するようになりました。トラッド・ジャズは、現代のジャズシーンにも影響を与え続けているのです。

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