トランス (2013年の映画)

トランス：記憶と策略の迷宮

ダニー・ボイル監督による2013年のイギリス映画『トランス』は、スリリングな展開と予測不能な結末で観客を惹きつけるサイコスリラーです。ギャンブル依存症に苦しみ、多額の借金を抱えた競売人サイモンは、ギャングのフランクと共謀してゴヤの名画を盗み出します。しかし、計画は思わぬ方向へ転がり、サイモンはフランクに襲われ記憶喪失に陥り、絵の隠し場所を忘れてしまいます。

フランクは、サイモンの記憶を取り戻すため、催眠療法士エリザベスを雇います。エリザベスは巧妙な策略でフランクの信頼を得ると、サイモンの治療に乗り出します。MRI検査などの医療行為を行い、サイモンへの接近を深めていきます。徐々にサイモンの記憶が蘇る一方で、エリザベスの不可解な行動がサイモンとフランクの疑念を呼び起こします。彼女はフランクだけでなく、サイモンとも肉体関係を結ぶなど、不穏な動きを見せるのです。

やがて、サイモンの封印された記憶が解き明かされます。1年半前、彼はエリザベスの患者として通院するうち恋人関係になり、しかし激しい嫉妬心からエリザベスに暴力を振るい、彼女から捨てられていました。復讐を誓ったサイモンはエリザベスをストーカーし、エリザベスは催眠療法によって彼に自分を忘れさせました。しかし、フランクに襲われた際に、サイモンは断片的に記憶を取り戻します。それは、彼が偶然出会った女性を、自分を裏切ったエリザベスと思い込み殺害した記憶でした。女性を車のトランクに隠した後、サイモンは絵も一緒に隠して逃亡、その後記憶を失くします。

記憶を取り戻したサイモンは、女性を殺害した罪悪感と、フランクへの復讐心から、フランクを乗せた車を焼き払おうとしますが、エリザベスがトラックでサイモンに突っ込み、車は川に転落します。サイモンは命を落としますが、フランクは辛くも生き延びます。後にフランクのもとへエリザベスから荷物が届き、タブレット端末には盗まれた絵画とエリザベスが映った動画が再生されます。そこには、全てがエリザベスの企みだったという衝撃の事実が明かされます。彼女は催眠療法でサイモンの記憶を消去すると同時に、彼のギャンブル依存症を悪化させ、借金まみれにして絵画を盗ませ、最終的に絵を自分に渡すように仕向けたのです。

エリザベスの策略にまんまと嵌められたフランクは、動画の指示通りに催眠療法で記憶を消去しようとしますが、直前で思いとどまります。

キャストには、ジェームズ・マカヴォイ、ロザリオ・ドーソン、ヴァンサン・カッセルら実力派俳優が名を連ね、それぞれのキャラクターを複雑で魅力的に演じています。

本作は、2001年のイギリステレビ映画を基に、ダニー・ボイルと脚本家のジョン・ホッジによる5度目のコラボレーション作品です。当初はマイケル・ファスベンダーがフランク役をオファーされていたものの、スケジュールの都合で降板、その後はコリン・ファースも候補に挙がりましたが、最終的にヴァンサン・カッセルが抜擢されました。エリザベス役には、スカーレット・ヨハンソン、メラニー・ティエリー、ゾーイ・サルダナも候補に上がっていました。

撮影は2011年9月に開始され、ダニー・ボイルはロンドンオリンピックの開会式作業のため一時中断を挟んでいます。ボイル監督は本作について、「初めて女性を映画の中心に据えた」と語っており、当初はニューヨークを舞台に構想していたものの、オリンピック関連の仕事のためにイギリスでの撮影となりました。

批評家の評価は賛否両論です。Rotten Tomatoesでは支持率68%、Metacriticでは平均点61点を獲得しています。洗練された映像とサスペンスフルな展開は高く評価されていますが、ストーリーの薄さや説明不足を指摘する声もあります。それでも、ダニー・ボイル監督独特の世界観と、予想外の結末は多くの観客を魅了することでしょう。

もう一度検索