トランスベスティゲーション

トランスベスティゲーション：写真や動画から性別の真偽を探ろうとする危険な陰謀論

近年、インターネット上では「トランスベスティゲーション（transvestigation）」と呼ばれる行為が問題となっています。これは、写真や動画などの視覚情報から、他人の身体的性別を間接的に探ろうとする試みであり、特定の著名人をターゲットとした陰謀論の一種です。アスリート、政治家、歴史上の人物など、多くの著名人がトランスジェンダーであると主張するケースが散見されます。

トランスベスティゲーションは、「transgender（トランスジェンダー）」と「investigation（調査）」を組み合わせた造語で、主にソーシャルメディアや動画サイト上で拡散しています。この行為を行う人々は「トランスベスティゲーター」と呼ばれ、有名人の画像などを基に独自の分析を行い、性同一性や出生時に割り当てられた性別を勝手に断定します。

彼らの分析は、人体の骨格を極端に単純化し、頭蓋骨、その他の骨格、顔の特徴、体型などを計測するデジタルツールを用いることもありますが、科学的な根拠に乏しいものです。骨相学のような、科学的裏付けのない推論に基づいており、パレイドリア現象や確証バイアスといった認知バイアスの影響を受けている可能性が高いと言えます。

トランスベスティゲーションの標的となるのは、セレブリティ、政治家、アスリートなど多岐に渡ります。特に女性アスリートは、競技で好成績を残すと、トランスジェンダーであると決めつけられ、誹謗中傷の対象となるケースも報告されています。しかし、ターゲットにされる多くの人は実際にはシスジェンダーです。驚くべきことに、コンピュータゲームのキャラクターでさえ、トランスベスティゲーションの対象となることがあります。

RMIT大学のジェイ・ダニエル・トンプソン博士（オンライン陰謀論専門）によると、トランスベスティゲーションの根底には、「有名人の性に関するゴシップ」「性やジェンダーの多様性に対するモラル・パニック（特にトランスジェンダーに対する）」といった要素があると指摘しています。Qアノンなどの他のオンライン陰謀論との共通点も指摘されており、潜在的な危険性を孕んでいると言えます。ただし、トランスベスティゲーターが必ずしもQアノン支持者や極右とは限らない点に注意が必要です。保守的なキリスト教における悪魔崇拝パニックとの類似性も指摘されており、社会的な不安や偏見が背景にあると考えられます。

トランスベスティゲーションは、さらに広範な陰謀論とも結びついています。「権力を握る人物はみんな実は隠れたトランスジェンダーである」という陰謀論の一環として捉えられ、「イルミナティが新世界秩序の実現のために子どもたちにホルモンを与え、トランスジェンダーの大人になって世界の有力な地位につき、トランスジェンダー・アジェンダを進めている」といった主張も見られます。ファクトチェックメディア「スノープス」のイズ・ラマデリン氏は、これらの主張の背景には「トランスジェンダーの人々が社会を乗っ取っている」という思考があると指摘しています。

トランスベスティゲーションは、性別を表現する正しい方法と間違った方法があるという性別二元論に基づいており、特定の性別の人々がどう見えるか、どう行動すべきかという性役割を規定しようとする試みです。このような言動は、トランスジェンダーの人々やLGBTコミュニティに対する差別や偏見と直結しており、トランスフォビアとみなされます。「TERF（トランス排除急進フェミニスト）」と呼ばれる一部の女性は、「自分がトランスジェンダーを見分ける能力がある」と信じ込み、差別的な言動に及ぶケースもあります。「GLAAD」は、トランスベスティゲーションを「反LGBTのオンライン憎悪と偽情報のほんの一例」と表現しています。

トランスベスティゲーションの歴史は明確にされていませんが、2017年に極右の陰謀論者アレックス・ジョーンズが「ミシェル・オバマは男性である」と主張した事例など、既存の陰謀論からの派生が確認されています。トランスベスティゲーションは、科学的根拠のない偏見に基づく危険な行為であり、社会問題として認識し、対策を講じる必要があります。

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