トリエステ (潜水艇)

トリエステ: 深海を探るバチスカーフ

トリエステ（Bathyscaphe Trieste）は、1950年代にスイスの物理学者オーギュスト・ピカールによって設計された深海探査艇です。この艇は、イタリアで製造され、後にアメリカ海軍により運用されました。トリエステは、マリアナ海溝の深度約10,911メートルにまで到達した最初の有人探査艇として知られています。この記録は、2012年に映画監督のジェームズ・キャメロンが搭乗した「ディープシーチャレンジャー」によって更新されるまで保持されていました。

設計と改良

トリエステは、浮力を得るためのガソリン槽と耐圧球で構成されており、ピカールはこの設計を「バチスカーフ」と名付けました。これにより、ボートは潜水球よりも自由度が高く、独立した生命維持装置も備えています。このバチスカーフは、1953年に地中海で進水し、1958年にはアメリカ海軍に購入されました。その後、サンディエゴの海軍電子研究所で改修され、太平洋での深海潜水試験に使用されました。

トリエステの船体は、耐圧を保つための厚い壁を持ち、計算上の安全係数も大きく取られていました。例えば、耐圧球はドイツのクルップ社によって製造され、圧力に対して非常に強固な設計が施されています。魚眼レンズのようなアクリル窓から外部を観察し、深海での照明には特別なクォーツアーク球が使用されました。また、浮上時のために9トンの重りを持ちながら、電磁石によって操縦される仕組みも備えていました。これにより、潜水途中のトラブルにも迅速に対応できる安全対策が組まれていました。

マリアナ海溝への潜行

1959年11月5日、トリエステはグアムに向かうために出港し、1960年1月23日にチャレンジャー海淵の海底に到達しました。オーギュスト・ピカールの息子であるジャック・ピカールとアメリカ海軍中尉のドン・ウォルシュが乗り組み、約5時間かけて目的の深度まで潜行しました。この探査中に、彼らは108メガパスカルの水圧に耐えつつ、魚の観察や地質調査を行いました。その際、潜水艇は窓に小さな亀裂が入るトラブルにも見舞われましたが、大きな損傷はなく無事に帰還することができました。

潜水艇の乗員は海底で約20分間過ごし、チャレンジャー海淵の生態系や海底の構造について多くの知見を得ました。この成功により、トリエステは地球上で最も深い海底に到達した最初の探査艇として名を刻むことになりました。それ以降、有人のチャレンジャー海淵への潜行は長らく行われていません。

遺産と退役

トリエステは1963年4月に、遭難した原子力潜水艦の捜索にも使用され、同年8月にはその残骸を発見しました。1966年には退役し、耐圧球は別の潜水艇「トリエステ2」に再利用されました。最終的に、トリエステは現在ワシントンD.C.の国立アメリカ海軍博物館において復元されて常設展示されています。

このバチスカーフの探査は、現代の深海研究に多大なる影響を与え、様々な無人探査機の開発にもつながりました。その後の探査艇はトリエステほどの深度には至りませんでしたが、汎用性と持続性において進化を遂げています。トリエステの探査は、深海の未知なる世界を知るための重要な一歩となったのです。

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