トリノフンダマシ属

トリノフンダマシ属：擬態と特殊な円網の狩人

トリノフンダマシ属 Cyrtarachne は、コガネグモ科に属するクモの仲間です。丸みを帯びた体に美しい斑紋を持つその姿は、クモ好きを魅了します。本稿では、その特徴的な形態、巧妙な擬態、そしてユニークな狩りの戦略について詳しく解説します。

見た目の特徴と擬態

トリノフンダマシ属のクモは、雌で体長約1cmの中型種です。腹部は大きく、幅広で、頭胸部を覆うように前方に張り出しています。腹部背面には滑らかな曲線と、いくつかの筋点が見られます。脚は比較的短く、休息時には体にぴったりと寄せられ、目立たなくなります。

性的二形は著しく、雄は雌の1/3から1/10程度の大きさしかありません。雌の美しい斑紋は、種によって異なり、個体変異も見られます。この体色の多様性は、擬態と深く関わっていると考えられています。

日本産4種のうち、トリノフンダマシとオオトリノフンダマシは、ハート形に近い腹部を白や黄色で彩り、肩の部分に渦巻き模様を有します。この模様と、つやつやとした腹部は、鳥の糞に酷似しており、「鳥の糞騙し」という和名の由来となっています。

一方、シロオビトリノフンダマシは、腹部中央に白い帯を持ち、黒と褐色のコントラストが鮮やかです。アカイロトリノフンダマシは、鮮やかな赤色の体に白い斑点が散らばり、テントウムシへの擬態と考えられています。

これらの擬態は、かつては捕食のためのものだと考えられていましたが、現在は隠蔽のためのものとされています。鳥の糞に擬態する種の場合、鳥の糞を餌とする昆虫を誘引して捕食するという説もありましたが、現在は否定されています。

夜間の狩りと特殊な円網

トリノフンダマシ属のクモは昼間は葉裏などに静止し、夜間に円網を張って狩りをします。しかし、この円網は非常に特殊です。コガネグモ科のクモは一般的に垂直円網を張るのに対し、本属のクモは水平円網を張り、その網目は非常に粗く、糸の数も少ないのが特徴です。

さらに、網の構造も独特です。一般的な円網では、放射状の縦糸に粘球を持つ横糸が渦巻き状に張られますが、トリノフンダマシ属のクモでは、横糸はほぼ同心円状に張り巡らされ、ひと繋がりの渦巻きにはなっていません。また、網を張る際にも、一般的なクモとは異なる方法を用いています。

この特殊な網は、ガなどの鱗粉のある昆虫を捕獲するのに非常に効果的です。ガが網に掛かると、横糸が縦糸との接合部で切れ、ガは縦糸にぶら下がる状態になります。クモはこの糸を吊り上げて、ガを捕らえるのです。この捕獲方法は、ナゲナワグモの狩りの方法と類似しており、進化的な関連性が示唆されています。

生態と分類

トリノフンダマシ属のクモは、卵嚢を枝先にぶら下げ、親はそばで保護します。孵化した幼生は、成体になるまで網を張らず、小さな虫を直接捕らえて生活します。

この属には世界に50種以上が知られており、日本にはトリノフンダマシ、オオトリノフンダマシ、シロオビトリノフンダマシ、アカイロトリノフンダマシの4種が生息しています。かつては、これらの種の変異個体を別種として扱っていたこともありました。

近縁の属としては、サカグチトリノフンダマシ属やイセキグモ属が挙げられ、これらのクモの網の構造を比較することで、トリノフンダマシ属の特殊な円網の進化過程を探る手がかりが得られています。

トリノフンダマシ属のクモは、その美しい姿と独特の生態で、クモの世界の奥深さを私たちに教えてくれる存在と言えるでしょう。

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