トリマラン

トリマランとは

トリマラン（trimaran）は、中央の主船体と、そこから横に張り出した2つのアウトリガー（フロート）を持つ三胴船です。ダブルアウトリガーとも呼ばれ、そのルーツは東南アジアの伝統的なカヌーに遡ります。現代では、レクリエーション用ヨット、高速フェリー、軍艦など、多岐にわたる用途で利用されています。

起源と発展

トリマランの起源は、東南アジア、特にフィリピンや東インドネシアのオーストロネシア文化に根ざしたダブルアウトリガーカヌーです。これらの伝統的な漁船は、今日でもその設計を色濃く残しています。ダブルアウトリガーは、古いカタマラン（双胴船）やシングルアウトリガー船の設計から発展しました。

特徴と利点

オーストラリアの造船会社オースタルによると、トリマランはカタマランやモノハル（単胴船）と比較して、以下のような利点があります。

波の発生を抑制: アウトリガーの配置を最適化することで波の発生を最小限に抑え、航行に必要な出力を低減できます。
横揺れの軽減: 横方向からの力に対する揺れが少なく、カタマランよりも安定しています。
縦揺れの抑制: 向かい波に対する縦揺れも抑えられ、船酔いの軽減に繋がります。
広大な甲板面積: 排水量に対して甲板面積を広く確保でき、積載効率が向上します。

一方で、以下のような欠点も指摘されています。

構造の複雑さ: 船体構造が複雑になるため、建造コストが高くなります。
重量物輸送への不向き: 重量物の輸送には向かず、低密度の貨物や旅客輸送に適しています。
ドック入りの困難さ: 船体下部の構造が複雑なため、ドック入りが難しくなります。
旋回性能の劣り: モノハルと比較して、船幅が大きいため旋回性能が劣ります。

近年の動向

オースタルは、2005年から2020年の間に14隻の高速トリマラン船を建造しました。そのうち11隻はアメリカ海軍向けです。2020年時点では、さらに11隻が建造中または受注中です。オースタルは、オーストラリア、アメリカ、ベトナム、フィリピンに造船所を展開しています。

「トリマラン」という名称は、「3」を意味する接頭辞「tri-」と「[双胴船]」を意味する「(cata-)maran」を組み合わせた造語であり、多胴船の先駆者であるビクター・チェチェットによって考案されたと考えられています。

帆走用トリマラン

最初のダブルアウトリガー船は、オーストロネシア人によって開発され、現在でも東南アジアの漁師によって広く使用されています。これは、古代のシングルアウトリガー船から発展したもので、風下時のタッキングの不安定さを解消しました。ただし、ミクロネシアやポリネシアでは、シングルアウトリガーやカタマランが主に用いられました。

ダブルアウトリガーの軍船は、古代から近世にかけて東南アジアで広く使われました。例として、フィリピンのカラコア、イラヌンやバンギギのラノン、モルッカ諸島のコラコラなどが挙げられます。これらの船は、植民地時代にヨーロッパ人によって「プロア」と呼ばれることもありました。

20世紀には、セーリング用のカタマランやトリマランが人気を博しました。現代的なセーリングトリマランは、1945年にビクター・チェチェットによって始まり、1950年代から1960年代にはアーサー・パイヴァーが合板製のトリマランを設計・製造しました。その後、性能と安全性が改良され、自作用キットや完成品が販売されるようになりました。現代の西洋製トリマランは、バミューダリグを採用し、幅広で浮力の大きいフロートを備えています。また、フロートの沈み具合が縮帆のタイミングの目安となります。客観的な比較では、伝統的なアウトリガー船が現代のトリマランよりも優れている場合もあることが示されています。

折りたたみトリマラン

一部のメーカーは、フロートを取り外したり、折りたたんだりできるトリマランを製造しています。これにより、陸上輸送やマリーナでの保管が容易になります。

競争と記録

トリマランは、世界一周レースなどの海洋競技で活躍しています。トーマス・コーヴィルは、トリマラン「ソデボ・ウルティム」で49日3時間の単独世界周航記録を保持しています。フランシス・ジョヨンは、57日13時間34分6秒で単独世界一周を達成し、エレン・マッカーサーの記録を破りました。また、ジョヨンと乗組員は、IDEC SPORTで40日23時間30分30秒の最速世界周航記録を樹立しました。水中翼帆走の実験船「Hydroptère」は、短時間で時速104.3キロに達しましたが、転覆事故を起こしました。アメリカスカップでは、BMWオラクルレーシングチームがトリマランを使用して優勝しました。

動力船

動力船では、「アースレース」が60日23時間49分の世界一周記録を達成しました。また、高速フェリーとしても利用され、Fred Olsen S.A.向けの全長127メートルの「Benchijigua Express」は、当時世界最長のアルミニウム船でした。トリマランの高速フェリーは、1970年代後半に登場し、主にノルウェーで建造されましたが、後にオーストラリアのインキャットとオースタルが主要な造船所となりました。オースタルは高速トリマランの開発に特化しました。近年の例では、JR九州の「クイーンビートル」や、フレッドオルセンの「バハマー・エクスプレス」と「バニャデロス・エクスプレス」などが挙げられます。

軍艦

トリマランは、高速性やヘリコプター甲板の確保といった点で軍艦としての利用も進んでいます。イギリス海軍では、実験船「トライトン」で実用性が確認されましたが、採用には至っていません。アメリカ海軍では、オースタル建造のトリマラン型LCS「インディペンデンス」が導入されましたが、問題点が指摘され、計画が縮小されています。インドネシア海軍では、ステルス性を備えたトリマラン高速ミサイル艇「KRI Klewang」が建造されましたが、火災により全損しました。フランスのCMNは、モザンビーク向けの沿岸警備艇「オーシャン・イーグル」を建造しています。

まとめ

トリマランは、その独特な形状と優れた性能から、様々な用途で利用されています。今後も、技術革新により、さらなる発展が期待されます。

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