トロワ条約

トロワ条約：百年戦争の転換点

1420年5月21日、百年戦争のさなか、フランスのトロワにおいて、フランスとイングランドの間に締結されたトロワ条約は、この長く続く紛争の戦局を劇的に変えることとなりました。この条約は、当時精神疾患を患い、事実上政治から退いていたフランス国王シャルル6世と、野心的なイングランド国王ヘンリー5世との間で結ばれ、フランス王位継承問題に終止符を打つことを目指しました。

条約成立の背景

この条約の成立には、複雑な政治的駆け引きと、当時のフランス王室の不安定な状況が大きく影響しています。シャルル6世は既に長年精神疾患に苦しんでおり、実質的な統治は行っていませんでした。その権力闘争の渦中にあったのが、ブルゴーニュ公フィリップ3世と、フランス王太子シャルル（後のシャルル7世）率いるアルマニャック派でした。フィリップ3世は、シャルル7世が自身の父であるジャン1世を暗殺したことを理由に、シャルル7世を敵視していました。

さらに、ブルゴーニュ派は、シャルル7世の出自に疑義を呈する噂を流布し、シャルル6世の怒りを買い、シャルル7世は王太子としての称号を失い、ロワール川以南に逃亡することになりました。この混乱に乗じて、ヘンリー5世は、ブルゴーニュ公フィリップ3世と手を組み、フランス王位継承を画策しました。

条約の内容と影響

トロワ条約において、ヘンリー5世はシャルル6世の娘であるカトリーヌと結婚し、シャルル6世の死後、フランス王位を継承することとなりました。これは、ヘンリー5世がフランス王位継承者となることを意味し、事実上、フランスの統治権をイングランドが握ることになる画期的な出来事でした。また、この結婚により、ヘンリー5世はシャルル6世の存命中は摂政としてフランスの政務に携わる権利を得ました。パリ大学や三部会もこの条約を支持したため、ヘンリー5世のフランスにおける支配は、名実ともに強化されました。

しかし、この条約は、法学者らからは、フランス王位継承はフランス国王の単なる意思で決まるものではないと異議を唱えられ、シャルル7世への支持も根強く残りました。これは、百年戦争の根本的な問題であったフランス王位継承問題の解決には至らなかったことを示しています。

その後と百年戦争への影響

ヘンリー5世は、1420年12月1日にはパリに凱旋しましたが、1422年8月31日に死去しました。そして同年10月21日にはシャルル6世も亡くなり、ヘンリー5世の幼子であるヘンリー6世がフランス王およびイングランド王と宣言されます。しかし、ヘンリー6世は幼少であったため、実質的なフランスの統治はヘンリー5世の弟であるベッドフォード公ジョンが摂政として行うことになります。

ベッドフォード公ジョンは、ロワール川以北でシャルル7世に忠誠を尽くす最後の都市オルレアンを攻囲しますが、このオルレアン包囲戦は、百年戦争の転換点ともいわれる激戦となりました。この後、ジャンヌ・ダルクが登場し、シャルル7世の勝利に大きく貢献することになります。

トロワ条約は、百年戦争の戦況をイングランドに有利にしましたが、フランス王位をめぐる争いはその後も続き、最終的にはフランスの勝利という形で終結します。しかし、この条約は、百年戦争における重要な転換点として、歴史に刻まれています。

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