トワーズ

トワーズ（toise）は、かつてフランス語圏を中心に用いられていた歴史的な単位です。主に長さの単位として知られていますが、時代や地域、また計測の対象によってその具体的な長さは異なり、面積や体積の単位としても用いられた多様な側面を持っています。

この単位の起源は、人間の身体的な尺度、具体的には両腕を広げた長さに由来すると考えられています。日本の「尋」や英語の「ファゾム（fathom）」など、世界各地で見られる同様の身体尺単位に相当するものと言えるでしょう。当初は自然な身体の寸法に基づいていましたが、次第に標準化が進められ、フランスでは主に「ピエ（pied）」と呼ばれる足の長さに由来する単位の6倍と定義されました。ピエはフィートに相当する単位ですが、フランスのピエは約32.48センチメートルと、英米のフィートよりわずかに長かったため、トワーズの基本的な長さは約1.949メートルとなりました。ちなみに、身体尺としての本来の腕の長さを示す単位としては、後に「ブラス（Brasse）」という別の単位（約1.624メートル）が作られています。

トワーズの定義は単一ではなく、歴史の中で変化し、地域によっても違いが見られました。特にメートル法がフランスに導入された1799年には、1メートルの長さが当時の標準とされていた「ペルーのトワーズ」を基準として、3ピエ11.296リーニュ（リーニュはピエの144分の1の単位）と厳密に定められました。この定義から計算されるトワーズの長さは、約1.949メートルとなります。その後、1812年から1840年1月1日までの短期間、「習慣的度量衡（mesures usuelles）」として、より分かりやすい数値であるちょうど2メートルとする「メートル法のトワーズ（Toise métrique）」が試みられましたが、これは広く普及することなく廃止されています。また、フランス国内だけでなく、スイスでは1.8メートルとされるなど、地域によって異なる長さが用いられていました。1866年の測定基準に関する詳細な調査では、1トワーズが1.94903632メートルと、さらに精密な数値で定義された記録も残っています。カナダにおいても、1919年にピエの定義が変更された結果、フランスのものとはごくわずかに異なる長さ（約7.29マイクロメートル長い）のトワーズが使われていました。

トワーズの標準化の歴史は、単位の信頼性を確保するための取り組みを示しています。1668年にはパリのグラン・シャトレに最初の公式なトワーズ原器が設置され、「シャトレのトワーズ」と呼ばれました。しかし、この原器には信頼性の問題があったため、1735年に「ペルーのトワーズ」と「北のトワーズ」という新しい原器が作られました。特にペルーのトワーズは精度が高いとされ、1766年にはルイ15世によってこれが唯一の標準と定められ、多くの複製が作られました。このペルーのトワーズが、前述の通り、メートル法導入時の1メートルの定義において基準の一つとして用いられたのです。

トワーズは長さだけでなく、面積や体積を表す単位としても使用されました。面積単位としてのトワーズは、一辺が1トワーズの正方形の面積を指し、約3.799平方メートルに相当します。フランスでは1799年12月10日まで、土地の面積を計量する際に広く用いられていました。体積単位としてのトワーズは、一辺が1トワーズの立方体の体積であり、約7.403立方メートルに匹敵します。

フランス語圏以外にも、ポルトガルやブラジルなどでメートル法が導入されるまで使われていた「トゥエザ（toesa）」という類似の単位が存在します。これもまた、フィートに相当する単位である「ペ（pé）」の6倍と定義され、約1.98メートルの長さを持ちました。

このように、トワーズは身体尺に始まり、ピエとの関連、そして複数の標準原器を経て定義が整備された歴史を持つ単位です。その長さは時代や地域によって異なり、長さだけでなく面積や体積の表現にも使われました。メートル法の普及に伴いその使用は廃れましたが、度量衡の歴史を知る上で重要な単位の一つと言えます。

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