トーマス・アーネスト・ヒューム

トーマス・アーネスト・ヒューム：反ヒューマニズムの思想家

トーマス・アーネスト・ヒューム（1883年9月16日-1917年9月28日）は、20世紀初頭のイギリスを代表する評論家にして詩人である。近代文明や人間中心主義への批判を鋭く展開した反ヒューマニスト、反近代主義者として知られる。その生涯は、激動の時代を反映するかのように、奔放で、そして短いものであった。

ヒュームはイングランド中部の裕福な家庭に生まれた。ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジに入学するも、素行不良により退学処分を受ける。その後は、ロンドン、カナダ、ブリュッセルと各地を転々とし、教師をしながらフランス語やドイツ語を学ぶなど、知的な探究を続けた。ボローニャ哲学大会への参加や、ベルリンでのドイツ哲学・心理学研究など、彼の知的好奇心は尽きることがなかった。特に、美術史家ウィルヘルム・ヴォリンガーの『抽象と感情移入』は、後のヒュームの思想に大きな影響を与えた。

1914年、第一次世界大戦が勃発。ヒュームは名誉砲兵中隊に入隊し、フランス戦線に赴く。負傷からの回復後も前線に復帰するが、1917年、ベルギーにて戦死した。享年34歳。

ヒュームの思想は、生前にはほとんど知られることがなかった。しかし、友人で批評家のハーバート・リードが彼の遺稿を編集・出版したことで、死後、ヒュームの思想は再評価されることになる。

彼の思想を一言で表すならば「反ヒューマニズム」であろう。ヒュームは、ルネサンス以降、西洋社会を支配してきた人間中心主義、生命力肯定の思想に疑問を呈した。彼は、個人の生命や欲望を絶対的な善とする考えは、一時的なものであり、いずれ終焉を迎える、と主張した。将来の芸術は、古典ギリシアを模範とした「生命的」「有機的」な性格とは異なる、「幾何学的」な性格を持つと予見した。

この反ヒューマニズムは、政治的スタンスにも反映された。ヒュームは、個人の生命を超えた価値を重視し、第一次世界大戦への参加を正当化。反戦論者として著名なバートランド・ラッセルと激しく対立した。彼は、打算的な「生命尊重」の合理主義に対抗して、「英雄的」で「非合理的な」倫理を提唱した。その思想は、フランスのジョルジュ・ソレルやイタリアのジェンティーレといった、当時の急進的な思想家と共通点を持つと指摘されている。また、マルティン・ハイデガーの反ヒュマニズム、反論理主義の先駆者としての評価も高い。

ヒュームの著作は、死後、様々な形で出版された。リードによって編集された『ヒュマニズムと芸術の哲学』や『言語と様式についてのノート』、ハインズによって編集された『さらなる思索』などが有名である。近年では、より包括的な全集も刊行されている。彼の翻訳活動も注目に値する。ジョルジュ・ソレルの『暴力論』の英訳は、その代表例である。

短い生涯であったが、トーマス・アーネスト・ヒュームは、現代思想に大きな足跡を残した。彼の反ヒューマニズム、反近代主義の思想は、現在においても、多くの議論や考察の対象となり続けている。彼の著作を読み解くことは、20世紀初頭の思想的潮流を理解する上で、不可欠な作業と言えるだろう。

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