トーマス・ドルビー

トーマス・ドルビー：音楽と技術の革新者

トーマス・ドルビー（本名：トーマス・ロバートソン）は、1958年10月14日生まれ、イギリス・ロンドン出身のミュージシャン、音楽プロデューサー、そして発明家です。彼のステージネーム「ドルビー」は、少年時代にキーボードやカセットテープをよく扱っていたことに由来し、友人からカセットデッキのロゴにちなんで名付けられました。このニックネームは、後にノイズリダクション技術で知られる「ドルビー・ラボラトリーズ」と混同されることになりますが、法廷闘争を経て、最終的にトーマスが電子機器を商標に使用しないことを条件として、ステージネームとしての使用が認められました。

音楽キャリアの幕開け

トーマス・ドルビーは、ニュー・ウェイヴとポップミュージックを得意とし、特にシンセサイザーなどの電子楽器を駆使した音楽スタイルで知られています。彼の音楽キャリアは、キーボード奏者としてブルース・ウーリー・アンド・ザ・カメラ・クラブに参加し、そのデビューアルバムにクレジットされたことから始まりました。その後、トンプソン・ツインズのアルバムにもシンセサイザー奏者として参加し、リーナ・ラヴィッチのヒット曲「New Toy」への参加など、様々なアーティストとのコラボレーションを通じてその才能を磨きました。

ソロアーティストとしての成功

1980年代初頭、トーマス・ドルビーはソロアーティストとして頭角を現し、アルバム『光と物体』に収録された「彼女はサイエンス」は、サンプリング音源を多用した革新的なサウンドで、ビルボード・ホット100で5位を記録する大ヒットとなりました。この曲は、彼の代名詞とも言える存在となり、その後の音楽活動に大きな影響を与えました。また、「ハイパーアクティヴ!!」や坂本龍一との共作「FIELD WORK」など、数々のヒット曲をリリースし、音楽シーンでの地位を確立しました。

多岐にわたる音楽活動

トーマス・ドルビーは、ソロ活動だけでなく、他のアーティストの作品にも数多く参加しています。フォリナーのアルバム『4』では、「Urgent」でシンセサイザーを演奏し、「ガール・ライク・ユー」のイントロでは特徴的な環境音を創り出しました。また、デヴィッド・ボウイのバンドメンバーとしてライブ・エイドに参加したり、ジョニ・ミッチェルのアルバム『ドッグ・イート・ドッグ』やプリファブ・スプラウトのアルバム『スティーヴ・マックイーン』など、プロデューサーとしても手腕を発揮しました。1985年のグラミー賞授賞式では、スティーヴィー・ワンダー、ハービー・ハンコック、ハワード・ジョーンズと共にシンセサイザーを駆使した演奏を披露し、音楽ファンを魅了しました。

インターネット事業への挑戦

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、トーマス・ドルビーは音楽活動を一時休止し、インターネット関連事業に力を注ぎました。1993年にはHeadspace社を設立し、RMF（Rich Music Format）という独自のファイルフォーマットを開発しました。このフォーマットは、MIDIのように小さなファイルサイズで高音質のオーディオを配信することを可能にし、無料プラグイン「Beatnik Player」を通じて試聴することができました。その後もRetro Ringtones LLCを設立し、携帯電話向けの着信音事業にも参入するなど、テクノロジー分野でも革新的な活動を続けています。

音楽活動への復帰

2006年、トーマス・ドルビーは音楽活動を再開し、25周年記念としてサンフランシスコで初の単独公演を行いました。その後、アメリカやイギリスでツアーを行い、その模様はCDとDVDに収録されリリースされました。2009年には、デジタル・リマスターされたCDとDVDのセット『The Singular Thomas Dolby』が発売され、彼の初期の作品や未発表曲を改めて楽しむことができるようになりました。

現在の活動

現在、トーマス・ドルビーは音楽プロデューサーとしての活動に加え、映画やビデオゲームのサウンドトラック制作にも携わっています。また、2001年からはTEDカンファレンスの音楽監督を務め、世界中の思想家や発明家が集まるイベントで生演奏を披露しています。彼の多才な才能は、音楽、テクノロジー、そしてエンターテイメントの世界で、今もなお輝きを放っています。

代表的なディスコグラフィー

スタジオアルバム
『光と物体』（The Golden Age of Wireless, 1982年）
『地平球』（The Flat Earth, 1984年）
『エイリアンズ・エイト・マイ・ビュイック』（Aliens Ate My Buick, 1988年）
『アストロノーツ&ヘラティックス』（Astronauts & Heretics, 1992年）
A Map of the Floating City (2009年)
ライブアルバム
Forty (2001年)
The Sole Inhabitant (2006年)
『ライブ・イン・東京2012』（Live in Tokyo 2012, 2012年）
EP
『動くサイエンス』（Blinded by Science, 1983年）
Amerikana (2010年)
Oceanea (2011年)
コンピレーションアルバム
『レトロスペクタル - ベスト・オブ・トーマス・ドルビー』（Retrospectacle: The Best of Thomas Dolby, 1994年）
12x12 Original Remixes (1999年)
The Singular Thomas Dolby (2009年)
The Invisible Lighthouse (2013年)

サウンドトラック
Howard The Duck Soundtrack (1986年)
Music From The Film 'Gothic' (1987年)
『ザ・ゲイト・トゥ・ザ・・マインズ・アイ』 - The Gate to the Mind's Eye soundtrack by Thomas Dolby featuring vocals by Dr. Fiorella Terenzi (1994年)
The Dark Eye (inSCAPE) (1995年)
Obsidian (1997年)

シングル
「彼女はサイエンス」（She Blinded Me With Science, 1982年）
「ハイパー・アクティヴ!!」（Hyperactive, 1984年）
* 「FIELD WORK」（1986年、坂本龍一との共作）

トーマス・ドルビーは、音楽とテクノロジーの両分野で革新的な活動を続け、その多才な才能で多くの人々を魅了しています。彼の音楽は、今もなお多くのリスナーに愛され続けています。

もう一度検索