ドイツ統一行進曲

ドイツ統一行進曲：歴史と音楽の交錯

ヨハン・シュトラウス1世によって作曲された『ドイツ統一行進曲』（作品227）は、1848年のドイツ統一運動の熱気の中で生まれました。この楽曲は、当時の社会情勢と作曲家の想いが反映された作品であり、後には政治的な思惑によって利用されるなど、複雑な歴史を背負っています。

作曲の背景

1848年、ドイツ諸邦の統一を目指すフランクフルト国民議会が開かれるという歴史的な出来事が、『ドイツ統一行進曲』の作曲を促しました。初演は同年7月26日、ウィーンのフォルクスガルテンで行われ、その直後に出版されたピアノ譜には、オーストリア大公ヨハンと七選帝侯の紋章が描かれ、「ドイツ万歳」の言葉が添えられました。この楽曲は、当時のドイツの人々の統一への願いを象徴するものでした。

軍楽隊用にはフックスが、弦楽オーケストラ用にはフィリップ・ファールバッハ1世が編曲を手掛け、様々な編成で演奏されるようになりました。

音楽的特徴

この行進曲は、同じくシュトラウス1世が作曲した『ラデツキー行進曲』（作品228）の直前に作曲されました。音楽評論家のマックス・シェーンヘルは、『ドイツ統一行進曲』を「形式、旋律構成の点から言っても、『ラデツキー行進曲』に次ぐ傑作」と高く評価しています。

『ドイツ統一行進曲』と『ラデツキー行進曲』には、ロッシーニのオペラ『ウィリアム・テル』序曲を想起させるリズム構成など、共通する要素が多く見られます。しかし、『ドイツ統一行進曲』は『ラデツキー行進曲』よりも和声が豊かで、アルペジオが多用されたメロディーは、歌曲のような柔らかい印象を与えます。

ナチス政権による政治利用

長らく行方不明とされていた『ドイツ統一行進曲』は、1938年のドイツとオーストリアの併合（アンシュルス）直後に、指揮者エドゥアルト・プフレガーによって再発見されました。この発見は、ナチス政権によって政治的な宣伝に利用されました。

「ヨハン・シュトラウスとドイツ帝国の併合」といった見出しが新聞を賑わせ、カール・マリア・ハスルブルナーによって新たな歌詞が付け加えられました。この新たな歌詞は、1848年の革命と1938年の併合を重ね合わせ、ナチスの政策を正当化しようとするものでした。

ナチスは、シュトラウス1世が抱いていた「叶えられなかったドイツ統一への夢」を強調することで、楽曲を政治的なプロパガンダとして利用しました。この行進曲は、作曲された背景とは異なる意味合いを持たされ、歴史の波に翻弄されたのです。

参考文献

大田美佐子「音楽と政治 : ナチス政権下のヨハン・シュトラウス受容 : ヨハン・シュトラウスのドイツ国家のマーチに関連して」（学習院大学『学習院大学ドイツ文学会研究論集』第4号、2000年）
Misako OHTA "Musik und Politik: Manipulation und Missbrauch der Musik der Strauss Familie in der NS-Zeit -anhand des Marsch des Einigen Deutschlands, op.227 von Johann Strauss Vater, in Straussiana der Reihe "Musik und Geschichte, Theorie und Ästhetik Band III, hrsg. von Walter Pass und Monika Fink, Verlag Hans Schneider Wien, 2002

外部リンク

* 『ドイツ統一行進曲』の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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