ドゥーカス王朝

ドゥーカス王朝とその子孫：東ローマ帝国を彩った名家の系譜

ドゥーカス王朝は、11世紀中頃（1059年～1081年）東ローマ帝国で皇帝を輩出した名家です。その起源は定かではありませんが、複数の説が存在します。一説には、4世紀にコンスタンティノープルに移住したローマ皇帝コンスタンティヌス1世の親族という説がありますが、これは帝位獲得後に創作された可能性が高いと考えられています。家名は、当時一般的な軍の地位である「ドゥクス (doux)」に由来するとの説が有力です。

ドゥーカス家の歴史：断絶と復活

9世紀後半には、既にドゥーカス家は存在しており、テオドラ皇后（テオフィロスの皇后）の摂政時代に活躍した人物が確認できます。その後、10世紀初頭にはアンドロニコス・ドゥーカスとその子コンスタンティノス・ドゥーカスが台頭し、高官として活躍しますが、反乱やクーデターに失敗し、一族は一時的に歴史から姿を消します。

10世紀末には「リュドイ家」と呼ばれる新たなドゥーカス家が登場します。その起源はリュディア地方とされ、バシレイオス2世に対する反乱に関与しましたが、その後赦免され、元の地位を取り戻しました。このリュドイ家と、以前のドゥーカス家との関係は不明瞭です。

11世紀になると、後に王朝を築くことになるドゥーカス家がパフラゴニア地方から現れます。彼らは裕福で、アナトリアに広大な領地を持つ有力一族でした。この一族と、それ以前のドゥーカス家との関係は、歴史家によって異なった見解が示されています。

ドゥーカス王朝：皇帝の系譜と権力闘争

1059年、コンスタンティノス10世ドゥーカスが皇帝に即位し、ドゥーカス王朝が始まりました。同王朝は、コンスタンティノス10世、ミカエル7世などを皇帝として輩出します。この時代、ドゥーカス家は他の名家との婚姻関係を積極的に結び、権力基盤を固めていきました。特に重要なのは、コムネノス家との婚姻です。コンスタンティノス10世の甥の娘エイレーネー・ドゥーカイナと、アレクシオス・コムネノス（後の皇帝アレクシオス1世）の結婚は、アレクシオスの帝位獲得に大きな役割を果たしました。

コムネノス朝におけるドゥーカス家：衰退と名家の継承

コムネノス朝の時代も、ドゥーカス家は重要な役割を果たし続けました。しかし、コンスタンティノス10世の直系の子孫は1100年頃には断絶し、その後は「ドゥーカス」の名は、婚姻関係を通して他の貴族にも使われるようになり、本来の血縁関係は次第に不明瞭になっていきました。それでも、「ドゥーカス」の名は、その家系の歴史と権威を示す象徴として、広く使われ続けました。

ドゥーカス家の分家と子孫たち：エピロス専制侯国とその後

ドゥーカス家の分家や子孫たちは、東ローマ帝国末期まで各地で活躍しました。特に、ギリシャ北西部のエピロス専制侯国を建国したコムネノドゥーカス家は有名です。また、ニカイア帝国の皇帝や、歴史家、高官など、多くの著名な人物がドゥーカスを名乗りました。

「ドゥーカス」という姓は、ギリシャ語圏に広く広がり、現代でも一般的な姓として残っています。その歴史は、東ローマ帝国の興亡と、その後のギリシャの歴史を反映しており、東ローマ帝国の遺産と、長く続く名家の物語を象徴的に示しています。

系譜と参考文献

(系図は、複雑なため、本文中に記載せず、参考文献に図表等を掲載した書籍などを参照ください)

参考文献

Cheynet, Jean-Claude (1996) Pouvoir et Contestations à Byzance (963–1210). Paris, France: Publications de la Sorbonne.
Kazhdan, Alexander Petrovich, ed (1991). The Oxford Dictionary of Byzantium. New York, New York and Oxford, United Kingdom: Oxford University Press.
Krsmanović, Bojana (11 September 2003). “Doukas family”. Encyclopaedia of the Hellenic World, Asia Minor. Athens, Greece: Foundation of the Hellenic World.
Polemis, Demetrios I. (1968). The Doukai: A Contribution to Byzantine Prosopography. London, United Kingdom: The Athlone Press.
下津清太郎 編『世界帝王系図集 増補版』近藤出版社、1982年
井上浩一 『ビザンツ皇妃列伝 憧れの都に咲いた花』 筑摩書房、1996年

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