ドクガ科

ドクガ科（Lymantriidae）は、昆虫綱チョウ目に含まれる一群の昆虫です。その和名は漢字で「毒蛾」と表記されますが、実際に毒を持つ種は科全体から見れば少数に限られます。この名称は、毒を持つ代表的な種が広く知られていることに由来すると考えられています。

形態

成虫は多様な形態を示しますが、多くの種で共通する特徴として、静止時に前脚を前方に伸ばして止まる姿勢が挙げられます。また、羽の色は全身が白、あるいはそれに近い淡色の種が多く見られます。特筆すべきは、秋に発生する一部の種で、雌の羽が著しく退化し、飛ぶことができず、雄とは全く異なる外見を持つものです。

幼虫はいわゆる「毛虫」の姿をしています。多くの場合、背中の一部が瘤状に盛り上がり、その周囲や背面に沿ってブラシ状の毛束が整然と並んでいるのが特徴です。体色は黒を基調とし、赤やオレンジなどの鮮やかな色彩が配色されており、これは捕食者に対する警戒色と考えられています。

名称と世界の認識

ドクガ科の学名はLymantriidae、代表的な属であるマイマイガ属はLymantriaと命名されています。このことから、日本語で「ドクガ科」と呼ばれる分類群は、世界の分類学においては「マイマイガ科」というニュアンスで捉えられていることがわかります。和名が一部の毒を持つ種に由来するのに対し、学名や世界の通称は別の特徴（マイマイガ属など）に基づいている点が興味深いでしょう。

毒性

ドクガ科の全ての種が有毒なわけではありませんが、ドクガやチャドクガといった農業や林業で問題となる主要な害虫種（主にドクガ属）は、卵から成虫に至るまで、一生を通じて毒針毛（どくしんもう）を持っています。毒針毛は非常に細く（長さ約0.1〜0.2mm）、幼虫の背中にある毒針毛叢生部（そうせいぶ）に束になって生えているのが見られますが、非常に抜けやすい性質を持っています。この抜けやすい毒針毛は、幼虫が移動した跡や脱皮殻、そして蛹が作る繭にも大量に付着します。さらに、成虫の体にも幼虫期に付着した毒針毛が残存するため、成虫に直接触れることでも毒針毛が皮膚に刺さり、かゆみや炎症などの皮膚炎を引き起こすことがあります。特に雌は、産み付けた卵塊の表面に幼虫期の毒針毛を擦り付けるため、卵塊にも不用意に触れるべきではありません。ただし、マイマイガのように、孵化直後の1齢幼虫の時期のみ毒針毛を持つといった例外的な種も存在します。

毒針毛が皮膚に刺さってしまった場合の対処法として、患部を掻いたり擦ったりせず、セロハンテープなどの粘着テープを皮膚に貼り付けてそっと剥がす方法で毛を取り除くのが効果的です。その後、患部を水で丁寧に洗い流し、炎症を抑えるために抗ヒスタミン作用のある軟膏などを塗布することが推奨されます。

「ドクガ」という和名が、毒を持つ種が少数であるにも関わらず付けられたのは、蛾類の中で成虫にも毒を持つ種が含まれること、そしてそうした種が人間にとって身近であり、接触の機会が多かったためと考えられています。幼虫の毒性や派手な体色が、保護色的なカレハガ類とは対照的に目立ち、名称に影響を与えた可能性も考えられます。一方、英語での呼称「Tussock moth」（フサガ）は、幼虫の背中の特徴的な毛束（tussock）に由来しており、毒性とは関連がありません。

日本産の主な種類

日本には多くのドクガ科の種が生息しています。代表的な種には以下のようなものが知られています。

ドクガ
チャドクガ
キドクガ
モンシロドクガ
ブドウドクガ
マメドクガ
スゲドクガ
リンゴドクガ
ヒメシロモンドクガ
コシロモンドグガ
スギドクガ
ダイセツドクガ
マイマイガ
カシワマイマイ
ノンネマイマイ
キアシドクガ
ヒメキアシドクガ

関連項目

ケムシ
イラガ
カレハガ
ガ

参考文献

一色周知監修,六浦晃（他）著『原色日本蛾類幼虫図鑑（上）』保育社、1965年。
江崎悌三,一色周知,六浦晃（他）著『原色日本蛾類図鑑（下） 改訂新版』保育社、1971年。
岸田泰則編 編『日本産蛾類標準図鑑II』学研教育出版、2011年4月19日。ISBN 978-4-05-403846-2。

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