ドクター前夜

『ドクター前夜』：8代目ドクターの物語と、衝撃の再生

『ドクター・フー』50周年記念スペシャル「ドクターの日」の前日譚として制作されたミニエピソード、『ドクター前夜』。2013年11月14日、BBC iPlayerとYouTubeで公開され、多くの視聴者を驚かせた作品です。

このミニエピソードは、タイム・ウォーという激動の時代を舞台に、宇宙船の操縦士キャスと8代目ドクター（ポール・マッギャン）の出会いを描きます。1996年のテレビ映画版以来となるマッギャンのドクター役は、多くのファンにとって感動的な瞬間となりました。本作の見どころは、これまでベールに包まれていた8代目ドクターの最期と、彼から9代目（ジョン・ハート）への再生という衝撃的な過程が克明に描かれている点です。

タイム・ウォーの影と、過去への繋がり

物語は、8代目ドクターが瀕死の状態にある宇宙船でキャスと出会うところから始まります。再生直前、ドクターは自身の過去を振り返り、オーディオドラマ『ビッグ・フィニッシュ』シリーズに登場したコンパニオンたちの名前を口にします。これは、オーディオドラマシリーズの登場人物がテレビ版で言及された初めての事例として、ファンを熱狂させました。

また、本作には惑星カーンや修道女といった、過去シリーズにも登場したキャラクターが登場します。特に注目すべきは、尼僧オヒラです。彼女は、4代目ドクターのエピソード「モービアスの脳」に登場した女教皇オヒカと名前が似ていますが、両者の関係性は明かされていません。この謎めいた描写も、『ドクター・フー』シリーズの魅力をさらに深めています。

制作秘話：8代目ドクターの最期を描く

『ドクター前夜』の着想は、「ドクターの名前」で登場したジョン・ハート演じる謎めいたドクターに端を発します。スティーヴン・モファットは、ジョン・ハートの姿になったドクターの過程をドラマ化したいと考え、8代目ドクターから直接再生するというアイディアを思いつきました。同時に、かねてから描きたかった8代目ドクターの最期を描く絶好の機会ともなったのです。

モファットは、出演を承諾してくれたポール・マッギャンと協力し、「ドクターの日」への導入となるミニエピソードを制作しました。撮影は2013年5月、ウェールズのRoath Lockで行われ、テレビ映画版を参考に改変した衣装が使用されました。冒険者のような雰囲気を漂わせる新しい衣装は、8代目ドクターのキャラクターをより際立たせています。

若いウォードクターが鏡に映るシーンでは、ジョン・ハートが過去に出演した作品の写真が使用されているという、製作陣のこだわりも光ります。

公開と反響：予想外のサプライズと熱狂的な支持

『ドクター前夜』の公開は、視聴者に秘密裏に行われました。公開直前にTwitterで告知されたことで、ポール・マッギャンのサプライズ出演は大きな話題となりました。当初は50周年記念週間での公開が予定されていましたが、リークを防ぐため、前倒しでの公開となった経緯があります。

公開後、本作はBBCのYouTubeチャンネル、BBC iPlayer、BBC Red Buttonで視聴可能となり、1週間で250万回以上の再生回数を記録しました。マッギャンの演技は高く評価され、ファンからは8代目ドクターのスピンオフシリーズを製作してほしいという声が殺到。Change.orgでは1万5000を超える署名が集まるなど、その人気は計り知れませんでした。

ファンからの熱い要望と、製作陣の決断

ミニエピソード公開後、ファンはマッギャン出演の続編を熱望しました。スピンオフを求める署名数は、最終的に4万人を超えるまでに増加。マッギャン自身も出演に意欲を示しました。キャス役のエマ・キャンベル＝ジョーンズも、キャスの死が明言されていないことを理由に、続編への出演を希望しました。

しかし、当時の製作総責任者であるスティーヴン・モファットは、スピンオフ製作の予定はないと発表しました。彼は、本作が50周年記念という特別な企画であり、同時に存在するドクターは1人にすべきだと主張しました。また、マッギャンの再登場は、ファンへのサプライズとして最大限の効果を発揮したとも述べています。

ホームメディアでのリリース

『ドクター前夜』は、「ドクターの日」のブルーレイとDVDに収録され、その後、様々な商品に収録されました。日本では2015年3月6日に発売された『ドクター・フー ニュー・ジェネレーション スペシャル』に特典映像として収録されています。

もう一度検索