モービアスの脳

「モービアスの脳」(原題:The Brain of Morbius)は、イギリスのSFテレビドラマ『ドクター・フー』シーズン13を構成する全5話中の1つです。1976年1月、イギリスのBBC Oneで放送され、日本では1990年2月、NHK BS2の衛星こども劇場枠で放送されました。日本で放送された4代目ドクターのエピソードとしては最後の作品であり、次の『ドクター・フー』エピソードが日本で放送されるまでには16年の歳月が流れました。

物語の舞台は惑星カーンです。タイムロードの戦争犯罪者モービアスの肉体を、他の惑星の生物の身体を使って作り上げようとする科学者ソロンの陰謀が展開されます。この作品には、後のシリーズで8代目ドクターの再生や、12代目ドクターとクララ・オズワルドの別れに関わるカーンの修道女が初登場します。

脚本はロビン・ブランド名義ですが、実際にはテランス・ディックスが執筆し、ロバート・ホームズが大幅に改稿した経緯があります。当初は人間とロボットの関係性をテーマに、ディックスが自身の過去の作品からのアイディアを盛り込もうとしていましたが、予算上の都合や、ディックスの国外滞在などにより、脚本は大幅に変更を余儀なくされました。ロボットのキャラクターはマッドサイエンティストであるソロンへと変更され、ディックスは脚本の改変に激怒し、自身のクレジット削除を依頼したと言われています。

本作は、メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』、特にジェイムズ・ホエール監督の映画版『フランケンシュタイン』からの影響を強く受けています。肉体の創造、科学者の狂気、そしてゴシックホラー的な雰囲気は、両作品に共通する大きな特徴となっています。

特筆すべき点として、モービアスと4代目ドクターの戦いの最中に、劇中未登場のドクターの顔が一瞬映し出されるシーンがあります。このシーンは、初代ドクターが真に最初のドクターではない可能性を示唆するものであり、シリーズ全体にわたるドクターの謎を深める重要な伏線となっています。

その後、シリーズの展開の中で、タイムロードの再生回数が12回に制限されているという設定が明らかになり、初代ドクターが「最も古いドクター」と呼ばれたり、様々な小説でこの謎のドクターの正体について様々な解釈が提示されました。 2020年のエピソード「時を超えた子供たち」では、ドクター自身も知らない初代以前のドクターが数多く存在したことが明かされ、「モービアスの脳」に登場したドクターの顔はその一部として再解釈されることとなります。このエピソードと「時を超えた子供たち」の放送の間には実に44年の歳月が流れています。

本作に対する評価は様々です。メアリー・ホワイトハウスはソロンの攻撃シーンなどを批判した一方、ポール・コーネルらはゴシックホラーとしてのテーマ性を高く評価し、デイヴィッド・J・ハウとスティーヴン・ジェームズ・ウォーカーは登場人物とリアルな暴力描写を称賛しています。

「モービアスの脳」は、複雑な制作経緯と、シリーズ全体に影響を与える重要な伏線を秘めた、多くの議論と考察を呼ぶ『ドクター・フー』の歴史における重要なエピソードと言えるでしょう。

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