ドニャーナ国立公園

ドニャーナ国立公園：自然と歴史が織りなす楽園

ドニャーナ国立公園は、スペインのアンダルシア州に位置し、ウエルバ県とセビリア県にまたがる広大な自然保護区です。ヨーロッパでも最大級の規模を誇り、その豊かな生態系は世界的に高く評価されています。ユネスコの世界遺産に登録されているほか、生物圏保護区、ラムサール条約登録地にも指定されており、国際的にも重要な自然保護区としての地位を確立しています。

渡り鳥たちの楽園と多様な生態系

毎年50万羽以上の渡り鳥や水鳥が越冬のためにこの地を訪れます。ドニャーナ国立公園は、鳥類だけでなく、多様な動植物にとって貴重な避難場所となっています。公園内には、湿地帯、砂丘、海岸線、雑木林、ラグーンなど、多様な環境が共存しており、それぞれの環境に適応した動植物が生息しています。900種類以上の植物、11種の両生類、約20種の淡水魚、約20種の爬虫類、37種の哺乳類、そして370種もの鳥類が確認されており、その多様性は驚くべきものです。

ドニャーナ国立公園の歴史

この地域の歴史は古く、伝説によれば紀元前にはタルテッソス王国が存在したとされています。また、アトランティス伝説の地であるという説もありますが、確たる証拠は見つかっていません。ローマ時代には、この一帯は湖であったとされ、その後、堆積物によって現在の湿地の姿へと変化しました。

中世には、貴族の狩猟場として保護され、16世紀にはメディナ＝シドニア公が妻のために宮殿を建てたことから「ドニャーナ」という名前が生まれました。18世紀までは狩猟場として利用されていましたが、その後は伐採や牧畜にも利用されるようになり、19世紀には博物学者たちが鳥類の卵や剥製を求めて訪れるようになりました。1963年には、開発による希少生物への影響が懸念されたため、スペイン政府とWWFが協力して保護区を設置し、1969年に国立公園となりました。

環境問題と保護への取り組み

1998年には、近隣の鉱山ダムから有害廃棄物が大量に排出される事故が発生し、生態系に深刻な影響を与えました。この事故により多くの魚類が犠牲になり、除去作業が行われましたが、現在でも地下水汚染の懸念が残っています。また、製油所の拡張計画や石油パイプライン建設も環境への脅威とされており、継続的な監視が必要です。

多彩な地形と景観

ドニャーナ国立公園の地形は非常に多様で、湿地帯が公園の半分を占めています。固定砂丘や移動砂丘、河口付近の海岸線、雑木林、ラグーンなどが織りなす景観は、それぞれが独特の美しさを持っています。特に、ヨーロッパでは珍しい移動砂丘は、年間約6メートルも移動すると言われています。季節によって水位が変化する湿地は、夏には干上がり、秋から冬にかけては水が満ち、春にはキンポウゲ科の花が咲き誇ります。海岸線は、コスタ・デ・ラ・ルスと呼ばれ、海水浴客に人気のスポットです。

生態系の詳細

ドニャーナ国立公園には、絶滅危惧種であるスペインオオヤマネコをはじめ、イベリアカタシロワシ、アナウサギ、カオジロオタテガモなど、多くの希少な動植物が生息しています。スペインオオヤマネコは、この公園が最後の隠れ家となっており、その保護が重要視されています。また、公園内では伝統的な生活も一部認められており、炭焼きや養蜂などが営まれています。

観光情報

公園内には複数の入り口に案内所があり、ハイキングコースや動物観察コースが整備されています。秋には、渡り鳥の大移動を観察することができます。観光ツアーは、バスツアーと船ツアーの2種類があります。

バスツアー: 公園西側のエル・アセブーチェ入口から出発し、約4時間で公園内を巡ります。
船ツアー: 公園東側のサンルーカル・デ・バラメーダから出発し、約3時間半で海岸線を巡ります。

また、海岸線沿いにはリゾートホテルやパラドールもあります。

エル・ロシーオの巡礼

復活祭後の第7日曜日には、公園内にあるエル・ロシーオの聖堂への巡礼祭が行われます。この巡礼祭には、遠くアルゼンチンなどからも多くの巡礼者が訪れ、大いに盛り上がりますが、公園の運営方針に反しない範囲で認められています。

世界遺産としての価値

ドニャーナ国立公園は、1994年にユネスコの世界遺産に登録されました。2005年には登録範囲が拡大され、公園周辺の自然公園を含めた54,252ヘクタールが登録されています。

登録基準

世界遺産登録基準のうち、以下の3つの条件を満たし登録されました。

(7): ひときわすぐれた自然美および美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
(9): 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において、進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
* (10): 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。


ドニャーナ国立公園は、その多様な生態系と美しい景観、そして歴史的な背景から、世界的に重要な自然保護区としての価値を持っています。今後も、その保全と持続可能な利用が求められています。

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