ドラゴシュ

ドラゴシュとモルダヴィア公国の成立

ドラゴシュ（Dragoş）は、モルダヴィア公国の初代公（在位：1351年 - 1353年）であり、この地域を治めた最初のルーマニア人として知られています。彼の治世は、ただ偉業のみに留まらず、後の歴史にも大きな影響を与えました。

初代公としての功績

ドラゴシュは、ハンガリー王からの命令を受けてマラムレシュを離れ、タタール人をドニエプル川の東へ追いやるという重要な任務を果たしました。この防衛活動により、モルダヴィア地域の安定が保たれ、彼の名前が歴史に刻まれるきっかけとなりました。彼の死後、息子のサシュが公位を継承し、さらにはその孫バルシュが公位に就くものの、わずか1年後にボグダン1世によって追放され、ドラゴシュの血筋はここで尽きることとなります。

建国伝説

ドラゴシュにまつわる建国伝説は、ワラキアの年代記作者ラドゥ・ポペスクやモルダヴィア公で歴史家のディミトリエ・カンテミールの著作に記されています。この伝説によれば、ドラゴシュは野牛を狩っている最中に、一頭の雌の猟犬であるモルダを失います。犬の名を冠した川、モルドヴァを命名したことから、後にこの地域全体がモルドヴァと呼ばれるようになったとされています。

モルダヴィアの紋章に描かれる野牛は、ドラゴシュの伝説に起因しているとされ、この物語は地域のアイデンティティを形作る要素となりました。他の伝説あり、異なる視点からの解釈もありますが、ドラゴシュが一人で狩りをしていたという話もあれば、彼が王家の出身であり、300人の仲間と共に村を創設したという記録も存在します。

この建国に関する物語の信憑性は、1700年代のカンテミール時代から議論され続けられ、1800年代にはディミトリエ・オンチウルがこの伝説がモルダヴィアの野牛を象徴する神話であると主張しています。

その他の活動

また、ドラゴシュはスチャヴァ県のヴァトラ・ドルネイという都市の創設者とも考えられています。彼はここで美しい女羊飼いに出会い、その記念にこの町を造ったと言われています。彼の業績は、地域に新たな文化やコミュニティの基盤を築く要因となったでしょう。

ドラゴシュの生涯や伝説は、ただの歴史的事実ではなく、モルダヴィア公国の成り立ちとルーマニア文化のアイデンティティに深く結びついています。彼の名前は今なお記憶され、モルドヴァの文化的な象徴として語り継がれています。モルダヴィアという名称がどのように生まれたのか、その背景にはドラゴシュの偉業と人々の想いが色濃く反映されています。

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