ドラゴンズの歌

「ドラゴンズの歌」は、プロ野球・セントラル・リーグに所属する中日ドラゴンズがかつて球団歌としていた楽曲です。この歌は、小島清が作詞し、サトウハチローが補作、そして数々の名曲を手掛けた古関裕而が作曲しました。1950年（昭和25年）から1977年（昭和52年）までの約28年間、チームの公式ソングとして親しまれました。制定当時のレコードには、B面に愛唱歌「私のドラゴンズ」が収められています。

歴史の中での位置づけ

中日ドラゴンズのルーツである名古屋軍は、1936年の球団創設時にすでに「名古屋軍応援歌」を持っていたとされています。そのため、厳密にはこの「ドラゴンズの歌」は2代目の球団歌と言えます。しかし、初代とされる名古屋軍応援歌に関する記録が失われているため、1948年に球団名が「ドラゴンズ」と定まって以降の最初の歌として、「ドラゴンズの歌」が初代球団歌や球団初の応援歌として扱われるのが一般的です。古関裕而が作曲した他のプロ野球球団歌、例えば阪神タイガースの「六甲おろし」や、読売ジャイアンツの3代目球団歌「闘魂こめて」が歌い出しから別名で呼ばれるように、「ドラゴンズの歌」も冒頭の一節を取って「青雲たかく」あるいは「あおぐも」と呼ばれることがあります。

制定当時の楽譜は現存していませんが、2020年には歌手のつのだ☆ひろ氏がCD音源を基に改めて採譜し、歌唱した記録があります。発表当時のSPレコードは球団側も所蔵していないとされていますが、2010年代以降は古関裕而の作品集に頻繁に収録されるようになり、国立国会図書館のデジタルアーカイブ「歴史的音源」では、B面曲「私のドラゴンズ」と共に聴くことが可能です。この楽曲は日本コロムビアが管理しており、演奏には所定の手続きが必要です。

誕生の経緯

1949年秋、プロ野球界はセ・パ両リーグへの分裂という大きな転換期を迎えました。セントラル・リーグに加わることになった中日ドラゴンズは、新体制となる最初のシーズンに向けて球団歌の制作を企画しました。1950年 1月25日付の中部日本新聞（現在の中日新聞）1面には、名古屋鉄道との共同企画として「ドラゴンズの歌」の歌詞を懸賞募集する告知が掲載されました。同時に、系列の夕刊紙『名古屋タイムズ』が「女性向き」の愛唱歌として「私のドラゴンズ」の歌詞を別に公募することも発表されました。この時点で、作曲を古関裕而氏が担当し、コロムビアからレコードが発売されることが予告されており、歌唱候補として藤山一郎氏または伊藤久男氏の名前が挙げられていました。

歌詞募集には合計2953篇が集まり、2月20日付の中日新聞で入選作が発表されました。入選したのは名古屋市からの応募作品で、サトウハチロー氏が入選作の補作を手掛けました。サトウ氏は熱心なドラゴンズファンであり、この入選作に情感豊かな補作を加えたと紹介されています。また、サトウ氏は1969年にはセ・リーグの球団であるアトムズ（現在の東京ヤクルトスワローズ）の「アトムズマーチ」も手掛けています。歌唱については、候補に挙がっていたうち、古関氏が戦前に作曲した巨人の初代球団歌「野球の王者」を歌った経験のある伊藤久男氏に決定しました。B面曲「私のドラゴンズ」は、名古屋タイムズが選定した田中順二氏の歌詞に藤浦洸氏が補作を加え、古関氏が作曲、安西愛子氏が歌唱を担当しました。

「ドラゴンズの歌」が生まれた1950年は、まさに2リーグ制がスタートした年でした。中日だけでなく、この年にはセントラル・リーグの広島（初代「我れらのカープ」）や、パシフィック・リーグの毎日（「わがオリオンズ」）、東急（「東急フライヤーズの唄」）、西鉄クリッパース（「西鉄野球団歌」）、そして阪急（2代目の「阪急ブレーブスの歌」）など、多くの球団が新たに球団歌を制定しました。興味深いことに、東急の球団歌も古関裕而氏の作曲であり、西鉄の球団歌はサトウハチロー氏が作詞しています。

表舞台から姿を消すまで

球団歌としての「ドラゴンズの歌」がどの程度まで球場で歌われていたかについては、入団時期によって記憶にばらつきがあるようです。例えば、1961年に入団したOBの権藤博氏は練習場や球場で耳にした記憶があると語る一方、1970年入団の谷沢健一氏は聴いた記憶がないとしています。この間、1963年には巨人が3代目球団歌「闘魂こめて」を制定しており、古関裕而氏が作曲した球団歌は、セ・リーグで中日、阪神（改題後も使用）、巨人、パ・リーグで東急の後身である東映と、NPB全体で4球団に上っていました。

「ドラゴンズの歌」が公式の場で演奏されなくなる決定的な契機となったのは、1974年に中日が20年ぶりにリーグ優勝を果たした際に誕生した応援歌「燃えよドラゴンズ!」の爆発的な人気でした。この応援歌は、CBCラジオの企画から生まれた山本正之氏作詞・作曲の楽曲で、OBの板東英二氏が歌唱しました。「燃えよドラゴンズ!」があまりに浸透したため、公式球団歌としての役割は薄れていきました。山本氏は後年、「燃えよドラゴンズ!」の人気が公式球団歌を上回ったことについて、「球団歌を差し置いてなどとは全く考えていませんでした。球団歌の作曲者は古関裕而先生。大好きで心から尊敬している先生なんです。古関先生と同じ中日ドラゴンズの歌に携われたことが今もものすごく幸せです」と語っています。しかし、こうした状況の中、公式球団歌は1978年に「勝利の叫び」へと交代し、「ドラゴンズの歌」はその歴史的な役割を終えることになりました。

一方、同時に制作されたB面曲「私のドラゴンズ」は、発売後に名古屋タイムズ社と親会社の中日新聞社の間で経営方針を巡る対立があったことなどが影響し、比較的早い段階で演奏されなくなったと言われています。このため、後年制作されたドラゴンズ関連のコンピレーションアルバムにも収録されることが少なく、国立国会図書館の「歴史的音源」以外で聴く機会はほとんどありません。名古屋タイムズ自体も、2008年に休刊し、発行元の会社も2009年に解散しています。

再評価の動き

「ドラゴンズの歌」は、「六甲おろし」や「闘魂こめて」といった同作曲者の他球団歌とは対照的に、長らく人々の記憶から遠ざかっていました。しかし、2007年に中日球団創立70周年を記念してキングレコードから発売されたアルバム『昇竜魂〜ドラゴンズ70thメモリアルソングス〜』に、コロムビアから原盤を借り受ける形で初めて収録されました。これは、公式には「勝利の叫び」に交代してから約30年ぶりに、広く聴ける形で世に出たことになります。

その後も、2009年の古関裕而生誕100周年記念としてコロムビアが発売した全集に収録されるなど、古関氏の作品をまとめたアルバムに頻繁に登場するようになりました。また、2015年に球団歌が「勝利の叫び」から「昇竜 -いざゆけドラゴンズ-」に変わる際、新しい球団歌の副題に、この「ドラゴンズの歌」の一節が引用されるという形で、その存在が再び脚光を浴びました。2020年に福島民報社が実施した古関メロディーの人気投票では、「ドラゴンズの歌」は14位にランクイン。現役球団歌である阪神の「六甲おろし」（6位）には及びませんでしたが、巨人の「闘魂こめて」（21位）を上回る健闘を見せ、その根強い人気を示しました。

「ドラゴンズの歌」は、中日ドラゴンズの歴史とともに歩み、一度は忘れられながらも、再びそのメロディーが多くの人々に再認識されている、球団にとって重要なレガシーの一つと言えるでしょう。

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