ドリアキノボリカンガルー

ドリアキノボリカンガルー

ドリアキノボリカンガルー（学名: Dendrolagus dorianus）は、哺乳綱二門歯目カンガルー科に属する、木の上で生活する有袋類の一種です。その名の通り、樹上生活に適応したカンガルーであり、ニューギニア島の森林で独自の進化を遂げました。

分布

この珍しい動物は、主にパプアニューギニアのニューギニア島中部山岳地帯に限定して分布しています。特定の標高範囲の多雨林に生息し、その生息域は比較的限られています。

形態

ドリアキノボリカンガルーは中型の有袋類で、成熟した個体の体長は通常58センチメートルから78センチメートルの範囲であり、体重は7.5キログラムから14.5キログラムほどになります。特徴的なのはその尾で、長さは43センチメートルから60センチメートルほどですが、体長に対する比率（尾率）は約77パーセントから80パーセントと、地上性のカンガルーと比べると短い傾向にあります。この尾は樹上でのバランスを取るのに役立つと考えられています。

体の毛並みには独特のパターンが見られます。顔の中央部から伸びる毛は頭部や頬へと向かい、背中の中央にある体毛の渦巻きから前方へと流れる毛と合流します。この合流地点、特に耳の付け根や頬の部分では、毛が波打つように畝（うね）状の模様を形成します。背中の中央部にははっきりとした体毛の渦があり、ここから体の前方向へと毛が流れる起点となっています。尾の毛は根元から先端に向かうにつれて徐々に長くなり、尾の先端では筆の穂のような総状（ふさじょう）となります。

胴体を覆う毛皮の色は主に暗褐色です。これに対し、吻（ふん）の先端や顔の一部、そして四肢は黒い毛色をしており、胴体との色のコントラストが特徴的です。また、尾の付け根付近には、黄褐色のまだら模様が現れることがあります。

生態

ドリアキノボリカンガルーは、海抜660メートルという比較的低い場所から標高3,300メートルにも及ぶ高地まで、幅広い標高域の多雨林、すなわち年間を通じて多量の雨が降る湿潤な森林環境に生息しています。彼らは木の上で生活する樹上性の動物ですが、地上に降りて移動したり採食したりすることもあります。

社会的な行動に関する観察例としては、特にメス同士の間で見知らぬオスに対して連携し、協力して対処する様子が記録されており、彼らが単独行動だけでなく、一定の社会的なつながりを持っている可能性を示唆しています。また、興味深い適応行動として、雨が降っている際には頭部を低く垂れる姿勢をとることが知られています。これは、体の表面の毛の流れを利用して雨水を効率的に体から地面へと流し落とすための行動と考えられています。

彼らの食性については、詳しい研究は限られていますが、主に森林の樹木の葉や果実などを食べていると推測されています。樹上でこれらの食物を探し、巧みに摂取します。

人間との関係と保全状況

ドリアキノボリカンガルーは、生息地の森林破壊に加え、特に地元の人々による食用のための狩猟の対象となることが多く、これらの要因が複合的に影響し、その生息数は減少傾向にあると考えられています。伝統的に貴重な食料源とされてきたことが、近年の生息数減少に拍車をかけている可能性があります。

パプアニューギニア国内の特定の地域、例えばシュローダー山脈においては、既にこの種のカンガルーは絶滅してしまった可能性が高いと懸念されています。その独特な形態や生態、そして減少する生息数を考慮すると、彼らの保全は喫緊の課題と言えます。生息地の保護や持続可能な利用に向けた取り組みが求められています。

関連項目

カンガルー科
キノボリカンガルー属

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