ドリュクロス

ドリュクロス（古希: Δόρυκλος, Doryklos）は、古代ギリシアの神話や伝説に複数登場する人物の名です。中でも特に著名なのは、ホメロスによる叙事詩『イーリアス』やアポロドーロスが記した『ギリシア神話』にその名が見られる、トロイアの王プリアモスの息子です。

プリアモスの息子ドリュクロス

トロイア王プリアモスには多くの息子がいましたが、ドリュクロスもその一人に数えられています。文献によっては、彼が正妻の子ではなく、プリアモスの庶子であったことが示唆されています。トロイア戦争が勃発し、ギリシア勢とトロイア勢の間で激しい戦いが繰り広げられる中、ドリュクロスは戦場に立ちました。しかし、彼の運命はギリシア側の屈強な英雄である大アイアースによって断たれることとなります。大アイアースは、ドリュクロスだけでなく、彼の兄弟であるパンドコス、リュサンドロス、ピューラソス、ピュラルテースといったプリアモスの他の息子たちをも討ち取ったと伝えられています。このように、プリアモスの息子ドリュクロスは、トロイア戦争における悲劇的な末路を迎えた多くのトロイアの戦士たちの一人として、叙事詩の中にその名を残しています。

その他のドリュクロス

「ドリュクロス」という名前を持つ人物は、プリアモスの息子以外にも、ギリシア神話やそれに類する伝承の中にいくつか見られます。これは、古代ギリシアにおいてこの名前が広く使われていた、あるいは異なる地方や伝説で同じ名前の人物が登場したことを示しています。

1. ディオニューソスの遠征軍の敵：ある伝承では、豊穣と葡萄酒の神ディオニューソスが東方へと遠征を行った際、彼に対抗したインドの戦士の一人としてドリュクロスの名が挙げられています。この人物に関する詳しい逸話は少ないですが、ディオニューソスの勢力拡大の物語に付随して語られることがあります。
2. オリュムピア競技祭の勝者：ティーリュンス出身のドリュクロスという人物も知られています。彼は古代のオリュムピア競技祭において、初期の大会で拳闘（ボクシング）の種目で優勝したと記録されています。これは神話的な要素よりも、歴史的な競技の伝承に関連する人物と言えるでしょう。
3. レームノス島の住民：アルゴナウタイ伝説において、英雄イアソン率いるアルゴナウタイが途中で立ち寄ったレームノス島の住民の中にも、ドリュクロスという名の人物がいました。レームノス島では、女性たちが島全体の男性を殺害するという事件が起こっており、ドリュクロスの運命もこの悲劇的な出来事と関連している可能性があります。
4. トマロス山の人物：また別の伝承では、モロッソイ人の領域にあるトマロス山の住人で、美しい女性ベロエーの夫であったドリュクロスの名が語られています。ベロエーは叙事詩『アエネーイス』にも登場する人物ですが、このドリュクロスについてはそれ以上の詳細な情報はあまり伝わっていません。

このように、ドリュクロスという名前は、トロイア戦争の悲劇から古代のスポーツの栄光、あるいは地方の伝承に至るまで、ギリシア神話の様々な場面で登場する名前であり、それぞれの物語の中で異なる役割を担っています。最も有名なのはやはりプリアモスの息子ですが、これらの同名人物の存在も、古代世界の物語の豊かさを示しています。

参考文献（入力情報より）：
ホメロス『イリアス』
アポロドーロス『ギリシア神話』
ウェルギリウス『アエネーイス』
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』
* ピンダロス『祝勝歌集／断片選』

これらの文献において、ドリュクロスに関する記述が見られます。特にプリアモスの息子については、『イリアス』やアポロドーロスに詳しい記述があります。

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