ドリュラエウムの戦い

ドリュラエウムの戦い：十字軍の進軍を決定づけた一戦

ドリュラエウムの戦いは、1097年7月1日、アナトリア半島北西部（現在のトルコ、エスキシェヒール近郊）で繰り広げられた、第1回十字軍における重要な戦闘の一つです。この戦いは、十字軍がエルサレムへ進軍する上で大きな障害となるルーム・セルジューク朝軍を打ち破り、その後の十字軍の勢力拡大に大きく貢献しました。

戦闘の背景

十字軍は、ニカイア攻囲戦での勝利後、エルサレムを目指して進軍を開始しました。しかし、ニカイアの陥落が東ローマ帝国とルーム・セルジューク朝の間で秘密裏に合意されたものであったことが判明し、十字軍は東ローマ帝国への不信感を募らせました。補給の問題から、十字軍は二手に分かれて進むことになり、前衛部隊はタラント公ボエモンが率い、後続の本隊はゴドフロワ・ド・ブイヨンらが率いることになりました。

6月29日、十字軍は、ルーム・セルジューク朝のクルチ・アルスラーン1世率いる連合軍がドリュラエウム付近で待ち伏せているという情報を得ます。十字軍側の年代記作者は、敵兵の総数を誇張して15万人から36万人と記録していますが、現代の研究では25,000人から30,000人程度と見られています。

一方、ボエモン率いる前衛部隊は、非戦闘員を含む約10,000人ほどの兵力でした。当時の西洋の軍隊は、騎乗した騎士に複数の歩兵が付き従う形であり、この部隊も約2,000人の騎士と8,000人の歩兵で構成されていたと考えられます。6月30日夕刻、ボエモン軍はテュムブレス川の北岸に宿営しました。

戦闘の経過

7月1日未明、ボエモン軍はクルチ・アルスラーン1世の軍に包囲され、奇襲攻撃を受けます。セルジューク軍の騎兵は、宿営に突入し、非戦闘員や歩兵を攻撃し始めました。十字軍兵士たちはパニックに陥り、戦列を組むことすら困難な状況でした。

ボエモンは、騎士たちに馬から降りて円陣を組むよう指示し、非戦闘員や歩兵を保護しようとしました。これにより、弱い兵士たちは保護されたものの、セルジューク騎兵は戦場を自由に駆け巡ることが可能になりました。セルジューク軍の弓騎兵は、突入して矢を放ち、反撃される前に退くという戦術を繰り返しました。重装の騎士にはあまり効果がありませんでしたが、馬や歩兵には大きな損害を与えました。

ボエモンは他の十字軍部隊に救援を求めつつ、円陣を維持して戦い続けましたが、じりじりと川岸へと押し込まれていきました。正午過ぎ、ゴドフロワの部隊が到着し、セルジューク軍の包囲を破ってボエモン軍を救援しようとしました。その後も、レーモンやユーグらの部隊が次々と到着し、十字軍の戦力は増強されました。7時間ほどの激戦の末、レーモン配下の騎士がセルジューク軍の側面に奇襲攻撃を仕掛け、戦況は十字軍有利に傾き始めました。

さらに、教皇使節アデマールの増援部隊が戦場に到着し、セルジューク軍の背後から急襲しました。アデマールの兵士たちはセルジューク軍の宿営を焼き払い、セルジューク軍は十字軍の強さに恐れをなして撤退を開始しました。

戦闘のその後

十字軍は、セルジューク軍が放棄した金品などを得て一時的に豊かになり、クルチ・アルスラーン1世は、この戦いの後、十字軍と戦うことを避け、東部国境での領土争いに注力しました。

これにより、十字軍はルーム・セルジューク朝の抵抗をほとんど受けずにアナトリア半島を縦断することができましたが、夏の炎天下での過酷な行軍は、多くの軍馬や将兵を失う結果となりました。また、十字軍の諸侯間の仲間割れも深刻化し、一部の諸侯は本隊を離れて別の地を目指しました。

最終的に、十字軍は10月にアンティオキアに到達し、アンティオキア攻囲戦へと突入することになります。

参考資料

この記述は、以下の文献を参考に作成しました。
エクスのアルベール: Historia Hierosolymitana
シャルトルのフーシェ, Historia Hierosolymitana
Gesta Francorum （『ゲスタ・フランコルム』、作者不明）
レーモン・ダジール（Raymond of Aguilers） , Historia francorum qui ceperunt Jerusalem （『エルサレムを占領したフランク人の物語』）
Hans E. Mayer: The Crusades. Oxford 1965.
Jonathan Riley-Smith: The First Crusade and the Idea of Crusading. Philadelphia 1999.
Steven Runciman: The First Crusaders, 1095–1131. Cambridge University Press, 1951.
Kenneth Setton, ed., : A History of the Crusades. Madison 1969–1989
John France, Victory in the East: A Military History of the First Crusade, Cambridge University Press, 1996.
John France, The Crusades And The Expansion Of Catholic Christendom, 1000-1714, Routledge, 2005.
* Matthew Bennett, The Hutchinson Dictionary of Ancient & Medieval Warfare, Helicon Publishing Ltd, 1998.

もう一度検索