クルチ・アルスラーン1世

クルチ・アルスラーン1世（1079年 - 1107年）は、ルーム・セルジューク朝の第2代スルタンとして、その短い生涯の中で激動の時代を生き抜きました。父スライマーンの死後、一時的に滅亡したルーム・セルジューク朝を再興し、十字軍の侵攻という未曾有の危機に立ち向かいました。

政権の獲得

クルチ・アルスラーン1世の父スライマーンは、大セルジューク朝の皇族であり、1077年にルーム・セルジューク朝を独立させました。しかし、1086年に大セルジューク朝のスルタン、マリク・シャーによって殺害され、クルチ・アルスラーン自身も捕虜としてイスファハーンに連行されました。マリク・シャーの死後、釈放されたクルチ・アルスラーンは、オグズ・イヴァ部族の軍を率いて西進し、父の首都であったニカイア（現在のイズニク）に到達。マリク・シャーによって任命された現地の知事を退けて、ルーム・セルジューク朝を再興しました。

マリク・シャーの死後、大セルジューク朝は分裂し、各地の氏族が独立を宣言する中、クルチ・アルスラーンは、スミルナを支配しエーゲ海に海軍を擁していたチャカ・ベイの娘と結婚し、勢力を拡大しました。しかし、東ローマ帝国の皇帝アレクシオス1世コムネノスは、アナトリアの奪還を企てており、チャカがクルチ・アルスラーンを狙っているという偽の情報を伝え、両者を対立させました。これによりクルチ・アルスラーンはチャカを殺害し、その勢力を取り込みました。

十字軍との戦い

1096年、民衆十字軍がニカイアに迫ります。クルチ・アルスラーンはキボトシュの戦いで民衆十字軍を打ち破りました。しかし、その後に続いた第1回十字軍本隊に対しては、その強大さを過小評価してしまいました。

第1回十字軍

1097年5月、クルチ・アルスラーンは東部でダニシュメンド朝との戦いの最中に、十字軍がニカイアを包囲したという知らせを受け、急ぎ首都に戻りましたが、既にニカイアは十字軍によって包囲されていました。ニカイア近郊での戦いに敗北したクルチ・アルスラーンは、ニカイアを東ローマ帝国に降伏させ、自身は内陸のイコニウム（コンヤ）へと退却しました。

その後、十字軍の強大さを前に、ルーム・セルジューク朝とダニシュメンド朝は同盟を結び、十字軍に対抗することになりました。1097年7月、両軍はドリュラエウム（現在のエスキシェヒール）で十字軍を待ち伏せましたが、十字軍の重装騎兵に苦戦し、敗北を喫します。しかし、クルチ・アルスラーンはその後もゲリラ戦術で十字軍に損害を与え続けました。しかし、アナトリア西部は十字軍によって奪われ、東ローマ帝国の手に渡ることになります。

1101年の十字軍

1100年、アンティオキア公国のボエモン1世がダニシュメンド朝に捕らえられた頃、西欧では十字軍の成功に刺激され、新たな軍勢が組織されました。1101年、アナトリアに到着した十字軍はアンカラを奪いましたが、メルシヴァンの戦いでクルチ・アルスラーン率いる連合軍に打ち破られ、壊滅しました。さらに、ヘラクレア・シビストラでも別の十字軍部隊を破り、テュルク人にとって、十字軍の騎士たちが無敵ではないことを証明しました。

1104年、クルチ・アルスラーンは弱体化したダニシュメンド朝を攻撃しましたが、この戦いでは、東ローマ帝国と連合し戦いました。

シリアでの戦争と最期

十字軍との戦いが一段落すると、クルチ・アルスラーンは東のシリア地方に進出し、ハッラーンとディヤルバクルを占領。1107年にはモースルを占領しましたが、大セルジューク朝の軍や、アルトゥク朝、アレッポの連合軍に敗北し、失意のうちに1107年、首都イコニウムで亡くなりました。

クルチ・アルスラーン1世は、十字軍との戦いという激動の時代を生き、ルーム・セルジューク朝の再興と領土拡大に尽力しました。その生涯は、政治的、軍事的な苦難に満ちていましたが、彼は卓越したリーダーシップと戦略眼で、困難を乗り越えようとしました。彼の死後も、ルーム・セルジューク朝はアナトリアで勢力を拡大し、後の歴史に大きな影響を与えることになります。

もう一度検索