ドリー (羊)

ドリー（Dolly）: 世界初のクローン羊

ドリーは、1996年7月5日に誕生し、2003年2月14日に6歳でその生涯を閉じた、世界初の哺乳類の体細胞クローンとして知られる雌羊です。スコットランドのロスリン研究所で生まれ育ち、その誕生は1997年2月22日に公表されました。

ドリー誕生の背景

ドリーという名前は、乳腺細胞由来のクローンであることにちなみ、飼育係によってドリー・パートンに敬意を表して名付けられました。彼女は、体細胞の核を除去した未受精卵に移植するという革新的な技術によって誕生しました。この技術は、1996年に6歳の雌羊の細胞からクローンを作り出すことに成功し、現代においても議論の的となっています。

クローン羊の作成手順

1. 羊(A)の乳腺から乳腺細胞を取り出し、特殊な条件下で培養し、細胞の全能性を復活させます。
2. 雌羊(B)から未受精卵を取り出し、核を除去します。
3. 核を除去した未受精卵に、処理した乳腺細胞を挿入し、電気刺激によって細胞融合を促します。
4. 融合した細胞を代理母となる雌羊(C)の子宮に移植します。
5. この手順を経て、ドリーは誕生しました。

議論と論争

ドリーの誕生は、科学界に大きな衝撃を与えると同時に、倫理的な問題を提起しました。1999年には、『ネイチャー』誌に、ドリーのテロメアが短いという研究が発表され、生まれつき老化しているのではないかという議論が起こりました。しかし、その後の研究では、クローン動物のテロメアは必ずしも短くないことが示唆されています。

2002年1月、ドリーが5歳の時に、若年性関節炎を発症したことが報告されました。この症状は、クローン技術による影響である可能性も指摘されましたが、明確な結論は出ていません。

これらの問題から、哺乳類のクローン技術は未熟であり、特にヒトへの応用は倫理的に問題があるという意見が強まりました。一方で、技術の改良によってこれらの問題は解決可能であるという主張も存在します。

死と遺産

2003年2月14日、ドリーは進行性の肺疾患により安楽死となりました。検死の結果、死因はヒツジによく見られるヒツジ肺腺腫であり、クローンであることとの関連性は低いとされています。

ドリーの誕生は、その後の大型哺乳動物のクローン作成を加速させました。クローン技術は、医療の進歩や絶滅危惧種の保護、ペットの再生など、多くの可能性を秘めています。また、マンモスなどの古代生物の復活計画も研究されています。

ヒトのクローンに関しては、倫理的な問題から反対意見が多くありますが、遺伝性疾患のリスク軽減や幹細胞移植の互換性確保、さらには能力向上などの目的で、条件付きで容認される可能性も議論されています。しかし、能力向上を目的とした遺伝子操作は、倫理的に問題視されています。

ドリーの剥製は、現在エディンバラのスコットランド博物館に展示されており、彼女の生涯とクローン技術の進展を物語っています。

関連事項

イアン・ウィルムット
キース・キャンベル
ジャミロクワイ - 楽曲「ヴァーチャル・インサニティ」

脚注

Dolly the Sheep, 1996-2003 from the Science Museum, London
Roslin Institute: Update on Dolly and nuclear transfer
Photos of Dolly and other cloned animals at Roslin
クローン羊誕生で倫理的波紋 1997.03.01 - 産經Web
『クローン羊』 - コトバンク

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