ドルトムント・シュタットバーン

ドルトムント・シュタットバーン

ドイツ西部、ノルトライン＝ヴェストファーレン州の都市ドルトムントに広がるライトレール網が、ドルトムント・シュタットバーンです。その歴史は古く、19世紀後半の馬車鉄道を起源とし、その後の電化による路面電車時代を経て、現代的な地下化・高規格化が進められてきました。現在、ドルトムント市の公営交通事業者であるDSW21（ドルトムント・シュタットウェルケ）が運営を担っています。

黎明期：馬車・蒸気鉄道の時代

ドルトムントにおける公共交通の歩みは、1881年6月1日に営業を開始した軌道線に始まります。この路線は、ベルリンの建設会社と市当局との交渉を経て実現しました。当初は馬と蒸気機関車が併用されており、急勾配区間では蒸気機関車が客車を牽引し、平坦な区間では馬が使用されるという珍しい運用形態でした。短期間ではありましたが、蒸気機関車による貨物輸送も試みられています。

開業当初の運営はベルリンの企業が行っていましたが、間もなくドルトムントの企業へ移管され、その後も運営主体は何度か変更されました。1890年代に入ると、ドルトムントの人口増加に伴い軌道交通の需要が急増。従来の方式では対応が困難となり、近代化が求められるようになります。

電化と路面電車網の形成

需要の高まりに応えるため、1892年12月には既存路線の電化が決定しました。1894年3月1日には最初の路面電車が営業運転を開始し、馬車鉄道区間を置き換えていきました。残っていた蒸気機関車区間も1896年までに電化が完了し、ドルトムントの都市交通は路面電車へと移行しました。

電化と並行して、路面電車網の拡張も積極的に行われました。市内には環状線が建設され、隣接する地区への路線も次々と開通しました。運営主体も公営化が進み、1906年4月1日からは市が直接運営する路線が登場しました。さらに、周辺地域の路面電車事業者との統合も進み、1914年にはドルトムント市が出資するドルトムント路面電車会社が設立され、大規模な路線網が一体化されました。この時点で、営業キロは約100km、系統数は16を数える規模となりました。

その後も路線網は拡大を続け、1927年にはさらに別の事業者も吸収。最盛期には20系統が運行されていましたが、軌間の違いや世界恐慌などの影響で計画通りに進まない部分もあり、一部区間はバスへの転換も行われました。

戦時下の試練と戦後復興

1939年、ドルトムント路面電車会社はガスや水道事業を行う事業者と統合され、現在の運営主体であるDSW21の前身となるドルトムント・シュタットウェルケが誕生しました。第二次世界大戦中は、交通需要が高まる一方で、乗務員不足が深刻化し、外国人捕虜や強制労働者が投入される事態となりました。度重なる空襲、特に大戦末期には市内中心部が壊滅的な被害を受け、路面電車の運行も一時的に停止せざるを得ない状況に陥りました。

終戦後、路面電車は1945年5月から順次運行を再開し、1949年までに多くの路線が復旧しました。しかし、一部路線はトロリーバスに転換されたり、縮小された区間もありました。戦後復興が進む中で、ドルトムント市街中心部の再開発が始まり、路面電車の線路を道路から分離し、専用軌道化する動きが見られました。一方で、自動車社会の到来により、路線の廃止も行われています。

車両面では、1948年から増備が再開され、1950年代には新型車両が導入されましたが、方向転換の制約がありました。より輸送力の高い大型連接車の大量導入が始まったのは1959年以降のことです。

シュタットバーンへの変革

1960年代に入り、自動車交通量の増加による道路渋滞が深刻化すると、ノルトライン＝ヴェストファーレン州は路面電車を地下化・高規格化するシュタットバーン計画を推進しました。ドルトムント市もこれに応じ、1966年にシュタットバーンの導入を決定。1969年10月から地下トンネルを含む建設工事が始まりました。

最初のシュタットバーン区間として、既存の地上線の一部が高規格化され、1976年5月15日に開業しました。そして、1983年5月27日には初の地下区間が開通。以降、地上区間の地下化や全体の高規格化が段階的に進められました。2008年4月27日に中心部の地下化が完了し、現代的なシュタットバーン網の骨格が形成されました。シュタットバーン化された区間の多くは高床式プラットフォームを採用していますが、一部の系統では路面電車時代の低床式プラットホームが維持されています。

現在の運行状況と車両

2024年現在、ドルトムント・シュタットバーンの総延長は75.0kmに及び、そのうち地下区間は20.5kmを占めます。残りの地上区間も多くが道路から分離された専用軌道となっており、信号制御などによって定時性や高速性が確保されています。全125駅のうち大部分はスロープやエレベーターを備え、バリアフリーに対応しています。運賃体系は、DSW21が所属するライン＝ルール運輸連合に基づいています。

運行車両には、高床式プラットホームに対応した車両と、低床式プラットホームに対応した超低床電車の2種類があります。高床車両としては、1980年代以降に導入されたB80C系や、近年導入が進む新型のB80D形が活躍しています。低床車両は、2008年から導入されたボンバルディア製のNGT8形が主力です。これらの車両は、新車の導入や既存車両の更新工事が進められ、サービスの向上が図られています。

引退した車両の一部は、ドルトムント地方交通博物館に保存されており、歴史を今に伝えています。中には動態保存されている車両もあります。

今後の展望

DSW21では、施設の改修に加え、シュタットバーン網の更なる拡張も計画しています。例えば、U44号線の一部区間では、2025年から延伸工事が始まる予定です。

ドルトムント・シュタットバーンは、長い歴史を経て常に進化を続けており、市民の生活を支える重要な交通インフラとして、その役割を果たしています。

（参考：日本の広島電鉄では、かつてドルトムントで活躍したGT8形車両が譲渡され、現在も運行されています。）

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