ドレスデン・エルベ渓谷

ドレスデン・エルベ渓谷：失われた世界遺産の記憶

ドレスデン・エルベ渓谷は、かつてユネスコの世界遺産に登録されていた、ドイツ東部を流れるエルベ川沿いの渓谷です。都市ドレスデンはこの渓谷に発展し、川を挟んで約20kmにわたり市域が広がっていました。この地域は、中央ヨーロッパにおける傑出した文化的景観を形成しており、都市と自然の河岸が一体となった景観が評価されていました。

かつての名所

エルベ渓谷には数多くの名所が存在しました。例えば、宮殿と歴史的な村落で知られるピルニッツやロシュヴィッツ、19世紀の技術を伝えるブラウエス・ヴンダー橋、ドレスデン・ケーブルカー、ドレスデン・モノレールなどです。また、ブリュールのテラス、ゼンパー・オーパー、カトリック旧宮廷教会など、都心部の歴史地区も見どころでした。工業地帯を含むブラセヴィッツも、歴史的な郊外地区として重要な役割を果たしていました。

世界遺産登録と削除

2004年、ドレスデン・エルベ渓谷はその文化的価値が認められ、世界遺産に登録されました。登録基準としては、建築、技術、都市計画、景観デザインにおける人類の価値の重要な交流を示すものであること、文化的伝統や文明の稀な証拠であること、歴史上重要な時代を例証する建築様式や景観の優れた例であることなどが挙げられました。

しかし、2009年、ヴァルトシュレスヒェン橋の建設が景観を著しく損なうとして、世界遺産リストから削除されるという、非常に残念な結果となりました。これは、世界遺産委員会がその意思で抹消を決定した最初の事例となりました。

ヴァルトシュレスヒェン橋問題

問題の発端は、ドレスデン市内の交通渋滞を緩和するために計画されたヴァルトシュレスヒェン橋の建設計画でした。この計画は世界遺産登録申請書にも明記されていましたが、登録後、建設反対派が勢力を増し、住民投票が行われることになりました。結果として建設賛成が多数を占め、計画は実行に移されることになりました。

ユネスコ世界遺産委員会は、橋の建設が景観に与える影響を懸念し、代替案を検討するようドレスデン市に求めました。しかし、市は住民投票の結果を尊重し、建設を強行する姿勢を示しました。自然保護団体は、渓谷に生息する希少種のコウモリへの影響を理由に建設中止を求め提訴しましたが、最終的には建設が認められました。

世界遺産委員会は、2008年の委員会でも登録抹消を検討しましたが、市当局からの釈明などを受け、見送られました。しかし、建設が本格化し、中止の見込みがなくなったことから、2009年の第33回委員会において、ついに世界遺産リストからの抹消が決定されたのです。

失われた遺産から得られる教訓

ドレスデン・エルベ渓谷の事例は、世界遺産の保護と地域開発のバランスの難しさを示しています。地域住民の意向を尊重することも重要ですが、世界的に重要な文化的景観を保護する責任もまた、重要なのです。この出来事は、世界遺産の価値を改めて認識し、将来の遺産保護に活かすための教訓として、私たちの心に刻まれています。

ヴァルトシュレスヒェン橋は、その後2013年に開通しましたが、世界遺産としてのドレスデン・エルベ渓谷は、永遠に失われてしまいました。

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