ドローン・ミュージック

ドローン・ミュージック：持続音が生み出す音楽の宇宙

ドローン・ミュージックとは、持続的な音、すなわち「ドローン」を基盤とした音楽の一形態です。単音または和音が長く持続することで、独特の音響空間と時間感覚を生み出します。この音楽は、単なる持続音の羅列ではなく、音の微妙な変化や倍音、そして聴く人の内面に深く響く瞑想的な体験をもたらすことを目的としています。

歴史的起源

ドローン・ミュージックの歴史は非常に古く、宗教的な儀式や伝統音楽にその起源を辿ることができます。雅楽やビザンティン聖歌といった古代の音楽には、持続音が多用されており、これらの音楽がドローン・ミュージックのルーツの一つと考えられています。中世ヨーロッパの楽譜にも、際限なく音を伸ばす指示が見られ、当時の音楽家たちが、交代で息継ぎをするか、あるいは持続音を出すことのできる楽器を使用していた可能性が指摘されています。これらの歴史的な音楽は、宗教的な儀式や瞑想的な空間を作り出すために、ドローンの効果が利用されていました。

現代における探求

20世紀に入ると、ラ・モンテ・ヤング、トニー・コンラッド、ジョン・ケイル、テリー・ライリーといった実験的な音楽家たちが、ドローン・ミュージックの可能性を追求し始めました。彼らは、持続音を主体とした音楽を通じて、聴覚的な知覚の限界を探り、新しい音楽表現を模索しました。特に、ラ・モンテ・ヤングは、長時間の持続音による音楽作品を発表し、現代ドローン・ミュージックの基礎を築いた一人として知られています。また、近年では、ヨシ・ワダ、エルンシュタルブレヒト・シュティーブラー、ジェイ・シュヴァルツといった音楽家たちが、ドローン・ミュージックの新たな展開を試みています。

ドローン・ミュージックの概念

音楽理論家のホセ・マセダは、音楽の根源を「ドローンとメロディー」であると定義しました。この定義は、ドローンが単なる背景音ではなく、音楽の基本的な要素であることを示唆しています。また、インドの伝統音楽においては、タンブーラという楽器で一つの音が持続的に強調されることが多く、この特徴がドローン・ミュージックの源泉として重要視されています。タンブーラの持続音は、音楽の基盤を形成し、メロディーを支える役割を果たしています。

ドローン・ミュージックの意義

ドローン・ミュージックは、従来の音楽のような明確なメロディーやリズムの展開を重視しません。その代わりに、持続音の微妙な変化や倍音の響きに焦点を当て、聴く人の内面的な感覚を刺激します。この音楽は、聴く人に瞑想的な体験や、日常の喧騒から離れた静寂な空間を提供します。また、ドローン・ミュージックは、聴覚的な知覚の限界を試す実験的な側面も持ち合わせており、現代音楽の多様な表現方法の一つとして重要な役割を果たしています。

参考文献

Boon, Marcus, "The Eternal Drone" (2002)
Cook, Nicholas & Pople, Anthony, The Cambridge History of Twentieth-century Music (2004)
Cox, Christoph & Warner, Daniel (eds), Audio Culture: Readings in Modern Music (2004)
DRAM (Database of Recorded American Music), "Drone in American Minimalist Music" (2008)
Levaux, Christophe, "Démesures. Une histoire du drone des 1960 à nos jours" (2015)
Potter, Keith, Four Musical Minimalists: La Monte Young, Terry Riley, Steve Reich, Philip Glass (2002)
Textura, "Drones: Theatres of Eternal Music" (2005)
Young, La Monte, "Notes on The Theatre of Eternal Music and The Tortoise, His Dreams and Journeys" (2000)
* Zuckerman, Gabrielle (ed.), "An Interview with La Monte Young and Marian Zazeela" (2002)

これらの参考文献は、ドローン・ミュージックの歴史、理論、そして現代における展開についてより深く理解するための手助けとなるでしょう。

もう一度検索