ドント・ルック・バック (映画)

ドキュメンタリー映画『ドント・ルック・バック』

『ドント・ルック・バック』（原題: Dont Look Back）は、1967年に公開されたD・A・ペネベイカー監督によるアメリカのドキュメンタリー映画です。1965年のボブ・ディランの英国コンサートツアーに同行し、その様子を記録しました。タイトルにはアポストロフィ (') が含まれていないのが特徴です。

映画の概要

この映画は、若き日のボブ・ディランの姿を捉えています。自信に満ち溢れ、時に傲慢とも見える態度の中に、カリスマ的な魅力が垣間見えます。また、ジョーン・バエズ、ドノバン、アニマルズを脱退したばかりのアラン・プライスといった著名なミュージシャンたちも登場し、それぞれの個性を発揮しています。さらに、マネージャーのアルバート・グロスマンやロード・マネージャーのボブ・ニューワースといった、音楽業界の重要人物も登場します。

その他、マリアンヌ・フェイスフル、ジョン・メイオール、ジンジャー・ベイカー、アレン・ギンズバーグといった著名人の姿も確認できます。

印象的なシーン

映画には、数多くの印象的なシーンが収録されています。

タイム誌記者との対峙: 雑誌『タイム』誌ロンドン支局の記者、ホレース・フリーランド・ジャドソンに対し、ディランが激しく言い返す場面は、彼の反骨精神を象徴しています。
アラン・プライスの音楽と脱退理由: アラン・プライスがバックステージで「Little Things」を演奏している最中、ディランが彼にアニマルズを脱退した理由を尋ねるシーンは、ミュージシャン同士の率直な会話を捉えています。
ディランとバエズのデュエット: ディランとジョーン・バエズがホテルの部屋でハンク・ウィリアムズの曲を歌う場面は、彼らの親密な関係を伺わせます。
バエズの歌声: バエズが「Percy's Song」の一部と、「ラヴ・イズ・ジャスト・ア・フォー・レター・ワード」を歌うシーンは、彼女の歌唱力とディランとの音楽的つながりを際立たせます。特に後者の曲は、当時未完成であり、バエズが「完成したら私のレコードに収録するわ」と語ったエピソードは有名です。実際、彼女は1968年にこの曲をレコーディングしています。
学生との哲学的な議論: コンサート直前、科学を専攻する学生とディランが哲学的な議論を交わす場面があります。この学生は後に Chrysalis Records の共同設立者となるテリー・エリスです。
グロスマンの交渉: マネージャーのアルバート・グロスマンが、元ビバップのダンスバンドリーダーで音楽エージェントのティト・バーンズと交渉をする場面は、音楽業界の裏側を垣間見せます。
「しがない歩兵」のパフォーマンス: 1963年7月6日のミシシッピ州グリーンウッドでの有権者登録集会で、ディランが「しがない歩兵」を歌う貴重な映像も収録されています。この映像は実験映画作家のエド・エムシュウィラーによって撮影されました。
ロイヤル・アルバート・ホールでのコンサート: ロイヤル・アルバート・ホールでのディランのコンサート映像は、彼の圧巻のパフォーマンスを伝えます。
「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」: ホテルの部屋でドノバンの歌を聴いた後、ディランが「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」を歌うシーンは、彼の音楽的感性を物語っています。
オープニングのミュージックビデオ: 映画の冒頭では、ディランが「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」に合わせて歌詞が書かれたカードを次々と投げ捨てる、ミュージックビデオのようなシーンが登場します。このシーンには、アレン・ギンズバーグも登場しています。

制作の裏側とエピソード

タイトルについて

原題の「Dont Look Back」には、アポストロフィが含まれていません。監督のペネベイカーは、「なるべく簡単な言葉にしようとした」と述べています。しかし、多くの文献や資料ではタイピングミスとみなされ、「Don't Look Back」と修正されてしまっています。

リリースと派生作品

1968年には、写真と文章による書籍版が Ballantine Books 社から出版されました。

デジタルリマスターされたDVDは、2007年 2月27日にリリースされました（日本では2007年 5月24日）。2枚組のデラックスエディションには、追加のオーディオトラック5曲、ペネベイカーとニューワースによるコメンタリー、「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」のオルタネイトバージョン、65 Revisitedと題されたアウトテイク映像が収録されています。

文化的遺産としての登録

1998年、『ドント・ルック・バック』は「非常に文化的、歴史的、美術的である」として、アメリカ議会図書館のアメリカ国立フィルム登録簿に選出されました。これは、映画史における重要な作品としての評価を裏付けるものです。