アルバート・グロスマン

アルバート・バーナード・グロスマンは、アメリカの音楽シーンにおいて、フォーク、ロックンロール界で重要な役割を果たしたマネージャーであり、起業家でもありました。彼は、ボブ・ディラン、ジャニス・ジョプリン、ピーター・ポール&マリー、ザ・バンドといった、数々の著名アーティストのキャリアを支え、音楽業界に大きな足跡を残しました。

生い立ちとキャリアの始まり

グロスマンは1926年、シカゴでロシア系ユダヤ人の家庭に生まれました。経済学の学位を取得後、シカゴ住宅局に勤務しましたが、1950年代後半には音楽業界への情熱から、ライブハウス経営に転身しました。フォークミュージックリバイバルの波に乗じ、彼は「リスニング・ルーム」というコンセプトで、若手アーティストを支援する場を提供しました。その一つが、ライスホテルの地下に開設された「ゲイト・オヴ・ホーン」で、ロジャー・マッギン（後のザ・バーズ）が12弦ギターのキャリアをスタートさせた場所としても知られています。

グロスマンはクラブ出演者のマネージメントも手掛けるようになり、1959年にはニューポート・フォーク・フェスティバルを立ち上げました。彼は音楽に対する深い洞察力を持っており、「アメリカの大衆は眠れる森の美女であり、フォークミュージックの王子様のキスを待っている」と語ったように、その可能性を信じていました。

ピーター・ポール&マリーとボブ・ディラン

1961年、グロスマンはマリー・トラヴァース、ノエル・ストゥーキー、ピーター・ヤーロウの3人でピーター・ポール&マリーを結成させ、翌年にはファーストアルバムをビルボードトップ10入りさせました。ワーナー・ブラザース・レコードとの契約では、音楽のレコーディングとパッケージングに関して、グループに完全なクリエイティブな決定権を与えるという前例のない契約を勝ち取りました。

1962年、グロスマンはボブ・ディランとマネージメント契約を結び、ディランを自身のウッドストックの自宅に招待しました。この地域を気に入ったディランは後に近くに家を購入。アルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』のジャケット写真には、グロスマンの妻がディランと共に写っています。1966年にワールドツアーから戻ったディランは、グロスマンの自宅から帰宅途中にバイク事故を起こし、その後8年間ツアーから遠ざかりました。

グロスマンは、ディランの「風に吹かれて」をピーター・ポール&マリーに提案し、彼らはそれをワンテイクでレコーディングしました。しかし、1970年7月、ディランはグロスマンが自身の出版権の50%を得る契約条件に気付き、契約を解消しました。

ジャニス・ジョプリンとの関係

1967年、グロスマンはジャニス・ジョプリンを含むビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニーのメンバーと契約しました。彼はメンバーにドラッグの使用を禁止しましたが、1969年春、ジョプリンがドラッグを使用していることを知っても叱責しませんでした。その代わりに彼は、ジョプリンの死の際に20万ドルが支払われる生命保険に加入しました。1970年10月、ジョプリンがヘロインの過剰摂取で亡くなった際、グロスマンは彼女の死について語ることを拒否し、保険金を受け取りましたが、保険会社から裁判を起こされました。彼は裁判で、ジョプリンの薬物乱用を知らなかったと証言し、事故死保険は飛行機事故を想定したものだと主張して勝訴しました。

ベアズヴィル・スタジオとベアズヴィル・レコード

1969年、グロスマンはウッドストック近郊にベアズヴィル・レコーディング・スタジオを設立し、1970年にはベアズヴィル・レコードを創業しました。このレーベルからは、トッド・ラングレンのソロデビュー作『ラント』などの作品がリリースされました。ベアズヴィル・レコードは、アンペックス・レコードを経て、ワーナー・ブラザース・レコードが配給を担当しました。

ベアズヴィル・レーベルには、トッド・ラングレン、ジェシー・ウィンチェスター、フォガット、ギル・エヴァンスなどのアーティストが所属していました。特にラングレンは、レーベルの初期において、プロデューサーとしても重要な役割を果たしました。また、ラングレンはジェシー・ウィンチェスターのアルバムでエンジニアを務め、ザ・バンドのアルバムにも関わっています。ベアズヴィル・レーベルは1980年代初頭まで活動し、グロスマンの死の2年前に閉鎖されましたが、ベアズヴィル・スタジオはその後も、多くのトップアーティストによって利用されました。

マネジメント・スタイル

グロスマンは、その攻撃的なマネジメントスタイルで知られていました。彼は自らの美的判断を信じ、顧客に25%という高いコミッションを要求していました。彼の交渉テクニックは沈黙で、相手が耐えられなくなるまで何も言わないことで、優位に立とうとしました。ディランは、グロスマンを「マルタの鷹」のシドニー・グリーンストリートのようだと言い、常に伝統的なスーツとネクタイを着用し、大きな声で話す姿を語っています。

グロスマンは顧客の成功を重視していましたが、その行動はしばしば敵意を生むこともありました。彼はジョーン・バエズを勧誘した際、「何でも欲しいものを手配できる」と言ったと伝えられています。グリニッジ・ヴィレッジでは、グロスマンは金の亡者だと見なされ、社会主義者や理想主義者からは嫌悪されることもありました。

映画での登場

グロスマンは、ボブ・ディランの1965年の英国ツアーを記録したドキュメンタリー映画『ドント・ルック・バック』で、ディランを常に守り、失礼な人々と対立する姿が描かれています。また、マーティン・スコセッシ監督の映画『ノー・ディレクション・ホーム』や、ボブ・ディランの伝記映画『アイム・ノット・ゼア』でも、グロスマンを彷彿とさせるキャラクターが登場します。コーエン兄弟の映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』では、彼をモデルとした人物が、シカゴのクラブを経営する姿が描かれています。

死去

グロスマンは1986年1月25日、心臓発作により59歳で亡くなりました。彼はロンドンに向かう途中で、カンヌの音楽会議に参加する予定でした。彼は、自身が建設したベアズヴィル・シアターの裏に埋葬されました。

アルバート・グロスマンは、その独特なマネジメントスタイルと、数々の音楽アーティストを成功させた手腕で、音楽業界に大きな影響を与えた人物です。彼の功績と、音楽業界における貢献は、今後も語り継がれるでしょう。

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